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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: イラクの実態?中央集権国家再建、道のり遠く  
コラム名: 透明な歳月の光 67  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2003/07/18  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   6月末の29日の日曜日に、サダム・フセインの郷里であるイラクのチクリットでは、町を二分するような出来事が起きた。

 無蓋の小型トラックに自動小銃を持って乗っていた男たちの一団が、アブダラ・マアムッド・アル・ハタブという族長を襲い、銃弾を浴びせかけて逃走したのである。アブダラは死亡し、いっしょにいた息子も傷を負った。犯人たちは捕まっていないらしい。

 独裁者によくあることだが、サダムは自分の郷里のために長年にわたって気前よく金を出して来た。ここには彼を恩人と感じている人がたくさんいるのだという。サダムを憎む人々の多い他の土地とは違って、チクリットではまだまだサダムには人気があり、あちこちの壁の落書きにもサダム支持の言葉が書かれている。

 私は今回初めて知ったのだが、サダムはバニ・アル=ナシリ族の出身だという。そしてアブダラ・マアムッド・アル・ハタブは、サダムによって族長の地位を与えられ、35年間に渡るサダム政権の間中、いつもサダムの身辺にいた。

 その族長が寝返ったのである。アメリカ軍主導で英米軍がバグダッドに進攻した後、アメリカ軍と主だった土地の顔役たちの前で、アブダラはサダム否定の立場を公表した。それが裏切り者と見なされ、今回の見せしめ殺人の動機となった、というのが一般の見方のようだ。

 フセイン・アルジュプリ知事によれば、「アブダラ・マアムッド・アル・ハタブにはたくさんの敵がいた。人からたくさんの不動産を取り上げた。たくさんの人を殺した。だから彼を殺した人物は、復讐を果たしたのだ」というわけである。こういう話を聞くと、昔の敵討ちの時代に戻ったような感じがする。

 この事件の直前、アメリカが任命した1人の知事が逮捕された。ナジャフ市の知事アブゥ・ハイダール・アブドゥル・ムーニムという人で、誘拐、人質、政府の役人や銀行幹部を脅して金を取り込んだというような複数の容疑で告発されている。この事件で、アメリカによるイラク国家再建のイメージは、さらに不安定なものになったという。

 この手の役人は決して1人や2人ではないだろう。中央集権的な安定した国家形態とは程遠く、国中に親分たちが割拠して暗躍し、利益の分捕りを企んで死闘している状態が続いている。しかも貧しくてうっぷんの晴らしの場もない反米分子が、狩りでもするような気分でアメリカ人を狙撃するだろう。制服の正規軍と一般市民の服装をしているゲリラが戦えば、ゲリラの方に分があるのである。

 日本が関与して戦後の経済復興を計画し、自衛隊が平和維持に向かおうとするイラクという国の、これが基本的な実態だということだ。
 



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