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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 竹切り?故郷の山を荒廃から救おう  
コラム名: 透明な歳月の光 62  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2003/06/13  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   5月の連休の後に、私は石川県金沢市の郊外の山で80人ほどの人たちと竹切りをした。日本財団のボランティア支援部の若者たちが中心になったが、他に全国紙と総合雑誌の記者たち、防衛大学校のOBたち、それとその企画を新聞紙上で読んだ読者たちである。

 その経緯は地元の北国新聞には詳しく報じられたのだが、その運動は全国的に広がる気運が出て来たので、少し詳しく述べてみたい。

 日本全国で見られる現象だが、雑木林に孟宗竹が侵入して木を枯らすようになった。竹は1年で1メートルも伸びる。つまり竹は雑草が芝生を駆逐するのと同じように、保水力のあるシイやカシなどの木を枯らす。いい海を作るには山の手入れをしろ、という言葉が思い出されるのである。

 私たちは去年から知人のいる山に入って、素人にでもできる竹切りをするようになった。今年は少し働き手を広げて、将来は日本全国で竹を駆逐する運動が起きるようにあちこちに声をかけたのである。

 実は私は根性も口も悪いので、密かに参加してくださる人たちのワルクチを言っていたのだ。

 「何しろマスコミなんて、赤提灯に灯がともらないと元気のでない人たちですからねえ」

 「自衛隊でも、偉くなられると重いものもお持ちにならないでしょうし、力仕事なんてもう何年もなさったことがないんでしょうから」

 財団側は、ボランティア支援部の青年たちの身上調査をしたところ全員が都会育ちだった。私はと言えば、8年前の足の大怪我以来、斜面では半端人足ならぬ10分の1人足の行動がやっとである。

 その日は快晴に恵まれて、朝8時半頃から作業を始めたが、まもなく私は人のワルクチを言うと後がよくない、という事実をいやと言うほど思い知らされた。防大OBたちは、黙々と確実に先頭に立って驚くべき体力を示した。同じ防大OBでも若手の現役の人たちは、小松の部隊から休日を返上して市民として来てくれたのだが、レンジャー部隊では150キロの目方の荷物を背負って歩くことを知ると、財団の青年たちの尊敬は一挙に深まった。

 惰弱なはずのマスコミが、これまたかなり優秀な労働力だったのも驚異だった。人は一芸に達すると、他のことも人並み以上にできるという見本である。一般の参加者の中では、小学校3年生が生まれて初めて使ったノコギリで、33本もの竹を切った。

 全員が手弁当。費用はすべて自分持ち。しかし普段会えない人々と会って、だれもが幸せになった。

 このまま放置すれば、どの地方でも山は荒廃の一途を辿る。それを救うには、その土地に住む人々が1年に1日か2日、感謝をこめて故郷の山のために働けばいいのである。
 



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