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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 万景峰号の検査?安全確保の徹底は世界の常識  
コラム名: 透明な歳月の光 61  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2003/06/06  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   私は今までに30回くらいイスラエルを訪問している。それは私がキリスト教徒であり、キリスト教とユダヤ教を勉強し続けているからであり、盲人や高齢者や車椅子を使う人たちと、最近のように情勢が悪くなるまでは毎年のように、団体でイスラエルへ行っていたからである。

 だから私はイスラエルの親派の1人だろうと思うのだが、それでもイスラエルの空港で、特別に信頼してもらった記憶など一度もない。

 テルアビブ空港の手荷物チェックの厳しいことは、多分世界のトップクラスの1つである。私たちは、飛行機の出発の3時間前に空港に着かねばならない。それから延々と1人ずつ、係官による、日本人からみれば一種の尋問が始まる。

 「荷物は誰が詰めたか」

 「詰めた荷物はどこにおいたか」

 「それを勝手に開けられる立場の人物はいたか」

 「この国に誰か知人がいるか」

 「見知らぬ人から荷物を預かったり贈り物をもらったりしたか」

 最後の質問はしかしなかなかおもしろいものだ。

 「武器を持っているか」

 本当に破壊的な目的で武器を持っている人が、「はい、持っています」と素直に言うものか私には疑問である。しかし飛行機が飛び立つのに間に合うかと思うほどの執拗な質問は、イスラエル名物だと感じるほどになった。

 国連パレスチナ難民救済事業機関の委託を受けてイスラエルにあるパレスチナ難民のキャンプの調査をした時など、さらにひどいものだった。私は少しも隠さず国連の要請によってそこを訪ねた、と言ったのだが、私はカバンの中身を全て取り出され、カバンの蓋や底にものを隠せる細工がないか係官は完全に手で厚みを計ったのである。

 飛行機に乗れば、前方と後方の特定の席に、必ず2人の私服の「戦闘要員」が乗っている。若者で軽装。死に物狂いでコーヒーを飲み、映画を見ながら眠気に堪えて起きている。席は、右手ですぐに武器を使える通路側である。ビジネスクラスだからスチュワーデスが化粧袋を配るが、必ず目的地で席に残して出る。

 万景峰(マンギョンボン)号の入港は今回実現するかどうかわからない状態だが、入港を許しても検査は徹底して、相手の心理など構わずやればいい、ということが言いたかったのである。世界中で、靴やベルトを脱がされたり、ハンドバッグの底まで探られるような検査は平気で行われているのだ。それでもテロリストでなければ、私のように再びその国へ行く。

 人道的でないなどということを気にする必要はない。人道の本質は、破壊を招く要素を許さないことなのだ。何時間かかろうが、検査は徹底して行えばいい。それが人とものの出入りの安全に責任を負う人たちの任務だからだ。
 



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