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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 論理的道筋?過不足なくものを見ること  
コラム名: 透明な歳月の光 46  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2003/02/21  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   私の住んでいる家は、まもなく築40年になろうという木造で、時々手入れをしているからどうにか保っている。

 私も人並みに、新しい美的な家に住みたいと思った時期もあるが、質素を通り越してケチに近いと思われる夫が、「うちはもう建て直さない。2人が死んだ時壊せば惜しげがない。木の家だから2日もあれば簡単に更地になる。後は自由に売るなり建てるなりすればいい」

 と宣言したので、私もその気になっている。

 しかし壁は煤けて部屋は暗くなって来た。せめて壁だけでもきれいにすると言うと、2人の秘書たちは喜んだ。もう30年近い付き合いの2人はそこそこの美女なので実際若く見えるし、私はいつまでも30代のような気がしていたのだが、実はもう細かい字を見る時に部屋が暗いと辛い年頃になったのだという。

 「明るくすると大変なんだけどなあ。皺もしみも見えるし、家具の傷も目立つし」

 と私は言ってみたのだが、2人は、しみも皺もどうでもいい。細かい字が楽に読める方がいい、と実利的である。

 そういうわけで改築ばやりの波に乗って、わが家も一部屋だけ整形美容をした。デスク前につけた長い蛍光灯のおかげで、手元がまことによく見えるということは、この世の快さだと実感した。

 人間はまず正当に、過不足なくものが見えることが大切なのだ。判断など、ずっと後になってからでいいらしい。

 イラク攻撃は、国際世論に押されて少し遠のいたという説もあるが、サダム・フセインは「敵」がバグダッドに入ろうとすれば、大きな人的被害を受けるだろう、と側近に語ったという記事を読んだ。

 サダムは自爆攻撃も有効だと勧めている。イラクもかつての日本も、追い詰められると自爆攻撃を思いついた。人間というものは、どこの人も何と同じようなことを考えつくものだろう。

 しかし私のような素人は、もしアメリカが外交的説得に失敗したとしたら、それはやはり辻褄が合わないからだ、と思う。自分の国が長距離ミサイルも核兵器も持っていて、武器も売っているのに、人の国がそれらのものを持ったりしたりしてはいけない、というのは身勝手だ。こういう理論は暗い部屋に老眼で乱視の人が住んでいるようなもので、筋道がよく読めないのである。

 もちろんアメリカは、自分の国には良識があり暴走しないから大丈夫なのだ、と言いたいのだろうが、「私を信じて…」などと言う人を信じるのはばかだということになっている。「私を信じて…」と言った女を信じてひどい目に遭った男たちの話は、昔から実に尽きるところなく、今に至るまでまだ教訓的に続いているのだから。
 



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