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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 世界の貧困問題?人道主義では解決できない  
コラム名: 透明な歳月の光 45  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2003/02/14  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   日本にいて日本の新聞を読んでいるだけでは、しみ通りにくい現実がある。1つには日本の新聞が外国のニュースとしていかなることでも事実なら平然と伝えるという姿勢を必ずしも貫いていないからだが、読者の方も、どこかでその現実を「ああよその国のお話だから」と心にしみこませないのである。

 日本では刑務所の公正さがしばしば問題になるが、それは現在のところ、看守が脱獄の手引きをした、というようなことでなく、受刑者の取り調べの時の扱い、日常の待遇などに関してである。

 刑務所に関しては、時々外部から雑音が入って来る。大昔、或ることで知り合った受刑者だった人の1人は、看守という立場は受刑者側から訴えても社会が取り上げないので、どんなことでもできる、作家が告発してください、と言った。もう1人の受刑者だった人は、「看守は僕が中で勉強している時、大変励ましてくれました」と言った。

 受刑者の食べ物を家族が持って行かなければならない国もアフリカにはあるはずだ。お父さんが刑務所にいて働けない上に、家族はその「徒食している」お父さんの食事まで確保しなければならない。

 以前、マダガスカルで働く日本人のシスターの要請で、クリスマスに特別許される受刑者用差し入れ弁当の費用を負担した。メニューは、ご飯、肉、野菜とバナナ。その結果、その年も1人が死んだ。ふだん食べつけないごちそうを食べると、時々そういうことが起きるという。私たちは、人を満腹にした結果として死なせることもあるのだ。

 最近インドネシアの刑務所事情を報道した記事を読んだ。刑務所では、汚職は日常茶飯事。酒、麻薬、携帯電話など、受刑者が望めば、どんなものでも看守がたちどころに持って来てくれる。

 「これは我々が生きるためのサイドビジネスとしてほんとうに必要なんです。もし刑務所側が払ってくれる給料だけで生きようとしたら、家族は飢え死にします」

 タンゲラン刑務所の看守の給与は月2800円から5500円程度で、タンゲラン地方の法定最低賃金の約9000円に到底達しない。汚職をするのももっともである。

 今世界中で起きる問題はすべて貧困から来ている。アフリカなどでは独立以後の方が生活が悪くなったように見える土地がいくらでもある。もちろん民族の自立は大切だ。しかし日本人には、植民地時代の生活の方が物質的にはよかったかもしれない、ということさえ全く認めようとしない人が多いから、問題は少しも解明されない。

 ただものを送る援助が必要なのではない。しかし経済的独立を困難にしている要素は、人道主義と平等をふりかざすような精神では決して浮かび上がって来ないのである。
 



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