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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: イラク問題?証拠示すべきはアメリカ  
コラム名: 透明な歳月の光 43  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2003/01/31  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   この原稿を書いているのは1月下旬だが、イラク問題はまだ先が見えない。しかしブッシュ大統領はますます冷静な手順を無視し、過激な指導者になってきた。1人のアメリカ市民としてなら、あれくらいの過激派はどこにいてもよい。しかし一国の大統領となると問題も多い。この人はキリスト教徒であることを前面に打ち出した言動が多いが、しばしば教義を理解していないことも示している。

 イラクに入った国連の査察団は、イラクに対して核弾頭や化学兵器が「ない」ことを証明せよ、と要求した。一般によく言われることだが、何かが「あるという証明は簡単にできる」のだが、「ないという証明は、最初からほぼ不可能」なのだ。

 私がサダム・フセインでも国連の査察団を入れはするだろうが、その際査察団の方がわざとボツリヌス菌やサリンをその場におくことまで恐れるだろう。日本にも、遺跡に出土品を密かに埋めてそれを自分が改めて発掘し、考古学の年代を狂わせかけた人がいたのである。

 アメリカのテレビを見ると、ブッシュは「イット・イズ・クリヤー」という言葉を使って、イラクがあってはならない兵器を保有していることは明らかだ、と言った。しかしそのすぐ後で、そのクリヤーであるものが、いつどのような形で確認されているかについては、今日、1月29日までのところ触れていない。核弾頭の古いドンガラのようなものが発見されたことは既にその時以前に報じられていたから、ブッシュはそれ以外の証拠をその時はっきりと示さなければ、政治家として部外者を納得させる説得力を持たなかったことになる。罵るだけで立証しないということは、教養に欠けるのである。

 パウエル国務長官のダボス会議で行った演説も、冷静でもなく実証的でもなかった。イラクが「欺いて来た」とか「どの国もフセインを信用していない」とか、感情的な表現のみが連発され、やくざの言いがかりのように聞こえる。他国の立場まで安易に代弁するのは、何より無礼であろう。

 彼はイラク側が「持たない証拠を開示すべき」で、「真実を答えねばならない」とも言った。どの国も自国の不利になることは開示しないのが鉄則だ。軍人ならそんなことはご存じのはずだ。だから証拠がいるのである。

 私はイラクの無実を信じているのではない。しかしパウエルが「アメリカは単独でも武力行使を実行する」と言い、国連の決議もなく、証拠の提示もなく攻撃に転じるなら、アメリカの勝利の後に出現する市民の被害に対して、アメリカはいつまでも怨嗟を受け、責任を負わなければならない。米同時多発テロの死者とイラク攻撃による死者とを、世界は必ず同等に数えて、アメリカとイラクは同じことをした、と言うのである。
 



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