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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 躾け方?愛情と信頼の上下関係がいい  
コラム名: 透明な歳月の光 27  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2002/10/04  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   衛星放送に「趣味悠々」という番組があって、そこで犬の躾け方を見た。

 私は昨年確実に22歳を過ぎた猫を死なせた後、もうペットを飼っていない。歳をとったらペットは飼わないことにしようと決めたのである。猫だって15年以上も生きるとは思わなかった。飼い主が先に死ぬと、ペットもかわいそうなら、後の人も困るから、慎むべきだと決めたのである。

 しかしその犬を躾ける番組はほんとうにおもしろかった。ことに家具を噛んで困る癖のある犬をおとなしくさせる方法には眼を見張った。

 飼い主は、犬がガリガリ噛む度に、名前を呼んで「だめ、だめよ。およし、よしなさい」というふうに、何度も叱ったのに、躾けられなかったという。

 調教の先生によると、それは犬が人間を仲間と見て、できるだけ相手になってもらいたいという手練手管を覚えたからだ、という。つまり叱られるということは、遊んでもらえるということだと、体験的にわかったのである。

 そこで調教の先生は、その場で犬を躾けてしまう。犬が先生にじゃれついたり、おすわりと言っても無視して騒いだりすると、首輪とつけた綱をきゅっと引いて力づくでそうさせない。命令は1回だけ。その時は犬の眼を見ない。

 それらのことは、犬にはっきりと、この人(間)と自分は違うのだ。同等ではないのだ。命令は人間側から一方的に出されるのだ、という関係を明確に覚えさせるのが目的だと言う。

 調教の先生がまずお手本を示し、その後、優し過ぎる飼い主にそのこつを教えると、騒いでいた犬は1回で静かになり、飼い主の傍に座ってじっとしていた。別人、ではなく別犬のようであった。

 怒る人がいるかもしれないが、その瞬間、この「犬の先生」ほどの「人間の先生」があちこちにいてくだされば、荒れる教室もなくなるだろうと短絡的に思ったものである。先生と生徒は友達、などと言ったから、生徒はめちゃくちゃになったのである。親と子供は同等、などとしたから、親は子供に何も命じられなくなったのである。

 先生と生徒、親と子供、は平等を云々する間柄ではない。愛情と信頼でつながる上下関係である。その最初の設定に失敗したから、落ち着きも聞き分けのない子供だらけになったのだろう。
 



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