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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: 第2、第3の人生?輝くオパールのように  
コラム名: 新地球巷談 14  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2002/09/30  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   90歳の現役医師、日野原重明さんの著作『生きかた上手』が洛陽の紙価を高め、発行部数は120万部を超えたと聞きます。世界一を誇る長寿国日本にあって、いま「お年寄り」やその予備軍が限りある人生をいかに生きるか、必死に模索していることの端的な証しといえるでしょう。

 私もあと1年で65歳、「老齢福祉年金」の受給資格者となります。まだまだ一生懸命働かなければと思っていますが、残りの人生について思いをめぐらせる年齢になってきました。

 「病は気から」といいます。しかし私は、基本的には「老いも気から」なのではと考えます。一合徳利(とっくり)が半分に減ったとき、「もう半分に減った」と思うか「まだ半分も残っている」と思うかで人生の方向もおおいに異なってきます。極力プラス思考で積極的に生きることが、残りの人生をより豊かにするのではないでしょうか。

 「オパール(OPAL)」という言葉があります。「Older Person with Active Life」の頭文字を組み合わせ、一昔前に米国フロリダ州立大学生涯研究所がつくった造語です。日本では「燻し銀」にかけて「シルバーパワー」といわれていますが、米国では、前向きに人生を生き抜くシニア世代は、七色の宝石のように光り輝いているとして「オパール」と呼ばれています。いまや、このオパール族を無視した広告は成り立たないとさえ言われます。

 健康な老人の存在は社会に貴重です。まして少子化が進む日本にあっては、一層重きを増しているといえます。日本財団では以前から、シルバーパワー活用プロジェクトを幾つか実施していますが、その中の一つに「中国への日本語教師派遣プロジェクト」があります。中学や高校で国語、英語など語学の教師を勤め定年を迎えられた方々を、中国各地の大学や高等専門学校に派遣し、最低1年間、現地の学生たちに日本語を教えていただこうというものです。

 発案者は日教組委員長として名を馳せた槙枝元文氏です。ふた昔前、国旗掲揚、国歌斉唱に反対する日教組に大いに異を唱えていた私に突然、計画への協力要請があったのが事の始まりでした。主義信条は異なるものの、シルバーパワーを生かし中国との交流に役立てることは大賛成、全面的な協力を約束しました。

 槙枝さんが主宰する「日中技能者交流センター」がスタートして16年、派遣教師は総数約1000人、派遣先の学校は150校にまでなりました。毎年の派遣者数も年々増えて、今日では100人を超える教師が中国各地で日本語を教えています。日本財団のお手伝いは赴任に先立つ研修会と渡航費用のみで、日本円にして月額2万円強の報酬や現地での医療費などはすべて中国政府の負担です。

 同文異種??。日本と中国との風俗慣習は想像以上に違います。一見、似たものに見える中国で、日本文化のエッセンスである日本語を教えることは決して容易ではありません。同じ漢字でも意味が異なり、教科書を自分で作る必要もあったりします。赴任先は中国側が決めますが、山間の僻地ともなれば相当の覚悟がいるでしょう。

 しかし、夫婦連れで赴任して現地に溶け込み、2年、3年と滞在延長される先生方も少なくありません。昔、日本にあった先生と生徒の親子のような交わりが生まれ、日本には無くなりつつある「敬い」をひしひしと肌で感じるからだと聞きました。帰国後、経験談を楽しそうに話される先生方の顔は一様に屈託がなく、前向きに生きる人の美しさがありました。

 日本においては「目上を敬う」良き伝統が消えつつある今日、星霜を経た経験、すなわち知恵を尊ぶ社会があってこそ、シニア世代が真価を発揮することを若い世代に知っておいてもらいたいのです。

 そのためにも「お年寄り」自らがより積極的に、七色に輝く「オパール」のように第2、第3の人生を生きたいものです。来年から「敬老の日」が「老人の日」に名を変えます。老人が自らの生活の向上に努めるよう促す趣旨であり、「お年寄り」が社会の重要な構成要因として認知されることなのです。
 

「(財)日中技能者交流センター」のホームページへ  


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