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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 障害者の偉業?陰の支援者の大きな功績  
コラム名: 透明な歳月の光 24  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2002/09/13  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   最近の新聞記事で、盲人の元中学教師、エリック・ワイヘンマイヤーさんという33歳の男性が、オーストラリアのコジアスコ山に登り、これで世界7大陸の最高峰すべての登頂に成功した、という記事を読んだ。彼は1995年にはアラスカのマッキンリー、2001年にはエベレストも制覇している、という。

 ワイヘンマイヤーさんは、「無理だと思えることが実は手の届くところにあるということを示したかった」と話している。

 確かに私が視力を失っていたらこうはならない。私は20年前、完全な盲目ではなかったが、読み書きができないほどに視力が衰えた。私の友人は私が全く見えなくなっても口述で小説を書き続ければいい、と慰めてくれたが、私は短編なら可能性はあるけれど、長編は無理だ、と思っていた。読みなおす作業が自由にできないのでは、とても長編など書けないと諦めてしまったのである。

 代わりに私は、鍼灸マッサージのツボに関する特別な勘があったので、鍼灸師になって第2の人生を歩こうと、自分に言い聞かせていたから、将来を閉ざされていたわけではない。

 手術が成功して以前よりよく見える視力を与えられるようになってから、私は毎年、眼の見えない人たちとイスラエルなどに聖地旅行をするようになった。そしてイスラエルからエジプトに返還されたシナイ山にも登った。

 シナイ山は標高2285メートルだが、少し高地にあるサンタ・カタリナの修道院に泊まってから登り始めるので、大体3000段くらいの不規則な石段風の足場を登ればいいということになっている。

 登山者は夜明け前に、星明かりの元で出発する。星は足下に散らばり、やがて朝日がこれもはるか下方の谷から上げ潮のように差してくる。

 何回かの登山の機会に、必ず数人の全盲の人が軽々と頂上を極めた。私はその健さに拍手を贈ると同時に、いつも彼らの傍らにぴったりと付き添い、殊に下山の場合には、一歩一歩足場を確保させていたボランティアの人たちに深く感謝した。視力障害者より疲れるのは彼らボランティアの方だが、称賛はいつも視力障害者だけに送られる。

 今の私は、そのような不均衡はやはり障害者の尊厳のためにいけないと考えている。この盲人の登山家が完全な単独登攀を成し遂げたのではない限り、「7大陸全最高峰踏破は、いっしょに登ってくれた友人のおかげです」という感謝の言葉が一言あり、報道にも陰の支援者たちの存在がはっきりと認識されている方がいい。

 障害者を励まそうとするあまり、このような感想だけが喧伝されたら、障害者があまりにも独りよがりで配慮に欠けた人のように見えて、かえってお気の毒なのである。
 



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