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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 絵文字?個性豊かな文章書く努力を  
コラム名: 透明な歳月の光 11  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2002/06/14  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   私の家に先日2日ほどの間に2通のファックスが入った。全く知らない人だったが、それは間違って私の家に送られて来たのである。うちへ来るファックスは、当然私たち夫婦か秘書に宛てて来たものだと思ったので、自然に眼を通したのだが、その手紙は私が一度も受け取ったことがないようなおもしろい文面だった。

 実は私は早速ファックスが間違って届いたことを相手に伝えようとしたのだが、発信人の電話番号がないからそれもできなかったのである。

 私は昔短いエッセイの原稿を間違った番号に送ってしまい、それを受けた葬儀屋さんがていねいに知らせて来てくれたことがあった。その時の深い感謝は今でも忘れられない。だから私もできれば江戸のご恩を長崎で返したかったのである。

 しかし間違いを教えようもないその手紙は、私に別の感動を与えた。最近ますます隆盛を極める「絵文字入り」の手紙だったのだが、私は今まで誰からもこういう手紙を現実に受け取ったことがなかったのである。

 「★今日は手紙ありがと!!胸あつくなっちゃったよ(ハート)(ハート)(ハート)しかたないよね、そういうこともあるんだから」

 雨だれが涙や悲しみを意味し、!は感動で、★印は…などと野暮な説明は要らないだろう。彼女が女友達から手紙をもらって感動し、ただ嬉しかっただけでなく(ハート)だったと言えば、なぜか理解はできるのである。

 彼女たちなりに、友情を築いて悲しみを慰め合ってもいる。それがどうして悪いのだ、と言えば反論もできない気もするが、私はやはりものわかりのいい「年長者」になるのはやめようと思うのだ。

 昔から一芸に達するには、それぞれに一定の年月の修業が要った。私など初めから文才があったとはどうしても思えないが、来年で50年間、毎日毎日文章を書き続けた。何万枚どころか何十万枚も書いたのだから、呼吸をするのと同じくらい楽に文章を書けるようになったとしても、当然だと思う。私の最大の才能は、辛抱強いことだけだった。

 1つのことを続ければ、一芸に達するだけでなく、いいか悪いかは分からないなりに個性ができる。だからわれわれ年長者はものわかりのいいことを言って若者の好きなようにさせるのではなく、絵文字でない文章を書ける人になることを若者に強制していいのだと思っている。
 



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