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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 公人?きちんと筋を通すべき  
コラム名: 透明な歳月の光 9  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2002/05/31  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   若い時の私は堕落の象徴だった小説家を志すだけあってひねくれ者で正統を嫌った。その心理の痕跡は今でも充分に残っているが、年を取ると不思議なことに筋道というものもおもしろく見えて来た。

 今でも私は、作家がいちいちあの編集者には1500円のウナ丼をおごったという受け取りをもらっておいて、必要経費の申告に使おうという態度になったら、てきめんに小説が悪くなると信じている。だから自分のお金に関しては受け取りも何もないのだが、今勤めている財団と関係のあることだけは、趣味的に自費で払ったという証拠を保存している。そうすればお噂雑誌が、私が財団に私的な費用を払わせたというような無責任記事を書くと、裁判で闘うことも気軽にできるのである。

 田中真紀子元外相は、政策秘書の給与を正当に払ったかどうかを口頭で答えればいいものではない。私の家のような大雑把な会計でも、秘書の給与には銀行の預金の引き落とし記録や、事務を行った第三者の給与記録などがあるから、その写しを添えて、すぐ物的な証拠を提出できる。それらは用意しなければ、税金の申告もできないものばかりだ。鈴木宗男氏も田中真紀子氏も、いったいどのようにして申告していたのだろうか。

 代議士になった以上いつでも経理を明らかにできることが、基本的な武装のはずだ。その備えがない公人の生活は疑われて当然で、その点を追及しない今の政府は、これで日本も途上国並みに権力者は経理が不明瞭でも済む国家になった、という印象を与えた。その責任は大きいと思う。

 日本の銀行は少し大口の定期預金を下ろすと「何にお使いです」と詮索する。それで私も一度は「ヒミツの男にやるんですよ」と言ってみたい心境だが、それは自分で儲けたお金に関してだけであって、公金は決してそうはできない。

 人間の細かい思想や感情を他人に伝えることは極めてむずかしい時が多い。しかしお金のことは心の問題ではないから簡単に筋を通せる。説明もできるし証拠も出せる。こういう単純な筋道があるのに、政治家たちはどうしてそのルールに従わなくて済むと思うのだろう、と年を取ると訳知りになるのが普通なのに、近年逆に不思議に思うようになった。

 世田谷区が旧オウム真理教の信者たちの住民票を抹殺しようとした。信者たちは区側に処分の取り消しと損害賠償を求めていたが、一審も二審も、区側が敗訴した。

 当然であろう。「悪い人」にはこの地上に住処を与えなかったり、かつて沖縄であったように自衛隊員の子供の小学校の入学を拒否する、などということがあっていいわけはない。こんな簡単な筋道さえわからなかった区の責任者たちは、裁判費用を自弁すべきだと思う。
 



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