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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 日本のあり方と都市を考える  
コラム名: 巻頭インタビュー  
出版物名: FORE  
出版社名: (社)不動産協会  
発行日: 2002/04  
※この記事は、著者と(社)不動産協会の許諾を得て転載したものです。
(社)不動産協会に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど(社)不動産協会の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
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社会構造の大きな変化の中で、新しい展望を模索している日本。日本のあり方はどうあるべきか、また、日本の都市の姿はどうあるべきか。作家活動を行うかたわら日本財団会長を務める曽野綾子氏にお聞きした。
(インタビュアー・内山敏夫)

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≪ 貧富と格差のない日本は素晴らしい ≫

??まず、今の日本をどう思われているか、お聞きします。

曽野 日本は貧富の差がなく、どこのお宅でもお風呂にお湯が出ていますね。そういう意味では、日本は世界一だと思います。また、ホームレスがいるじゃないかとおっしゃる方もいますが、全体としては格差がない。その意味でも日本はすごい国です。

??しかし、ホームレスが増えているようですが。

曽野 私、小説を書くために、ホームレスの人を取材して歩きましたが、その時、言われましたもの。「私は社会に縛られないために、やりたくてやっているんだ。あなた方の方が私より縛られているんじゃないですか」と。もちろん、不運にも病気になったり、いろいろな事情で余儀なくああいう生活をするしかない人が多いと思いますが、そうじゃなく、選んでそうなった人もいるんですよ。

??原書を読んでいる人もいますものね。

曽野 ホームレスの人を収容する病棟が赤羽橋にある済生会病院で、そこも取材しました。そのとき、傷口が見えないぐらい汚れている人には、体を洗う施設があるんですね。口がきけない人の身体を洗ってあげて、傷口を見て、所持金をケースワーカーが調べるんですが、ほとんどの方が数百円しか持っていない。それでも、意識がなくて苦痛を訴えられない人にはすぐにCTスキャンをかけて調べています。こんな国はありませんよ。救急車が有料だという国がほとんどですからね。倒れている人を誰でも無料で救急車に乗せて、病院に運ぶ国なんて数少ないです。

 そのとき、感銘を受けたのは、「手前の窓から2番目のベッドにいる方は、こういう方で、先週は精神的に弱っておられましたが、今は大変お元気になられて」と、敬語が使われていたことです。そこで働いている婦長さんは、患者さんに敬語使っていらっしゃいました。すごいと思いましたね。天皇、皇后にも敬語をつけないのが民主主義だという新聞もありますが、どなたにも敬語を使ってしゃべるという方が私は好きですね。


≪ 土木の現場があって、今の日本がある ≫

??景気が悪い、景気が悪いという大合唱が聞こえますが。

曽野 この前、孫と銀座を歩いたんですが、どこもいっぱいでお茶も飲めないんですよ。うちの孫は田舎に近いところで育ったもんだから、「こう見ると不景気じゃないと思いたいけど、やはり不景気なんだろうね」と言うから、「どうして」と聞くと、「景気がいいときは、宝石とか着物を買うんだろうけど、何も買わないであんみつ食べて帰るんだよ」。そういう意味では不景気なんでしょうけど、失業者がいっぱい出ているというけど、私のまわりには「明日の米がないから、すいませんけどください」という人は1人もいない。どういうことか教えて下さい。(笑)

 ところで、私、銀座を歩いていても、作業服を着て歩いている人をじっと見る癖があるんですよ。長いこと、土木の勉強をしていましたから。

??曽野さんが土木の勉強ですか?

曽野 はい。私、土木のすごさをよく知っています。護岸と橋は駄目ですが、隧道と高速道路とダムだけはよくわかっています。

??なんでまた、土木を?

曽野 土木の小説を書くためです。それで、40年ぐらい前から現場に通っています。ですから、銀座の街中でも、保安帽をかぶって、保安靴を履いている方の姿を見ると、ああ、きれいだな、何をしていらっしゃる方かな、と思ってその人だけを見ている。日本は、そういう方々がいたから、隧道を堀り、高速道路をつくり、ダムをつくって世界に比類なき電力供給システムをつくったのです。だから、日本は半導体産業でも何でもやれた。

 私、実際にどうやって彼らが仕事をしているか知っているから、あの人たちに対して自然破壊をするとか悪く言うのはとんでもない話だと思っています。隧道を掘ろうとして、調査坑を掘るために一発の発破をかけるとき、そこに楓やモミジがあれば、その上に毛布をかけて発破をかけてるんですよ。1本、2本の木なんていいじゃないかと思いますが、実際の現場はそうじゃありません。

??それ、本当ですか?

曽野 明治の頃は「伐ってしまえ」だったかもしれませんが、今は違います。日本の営林署は、目通り(人の眼の高さ)直径5センチ以上の木を全部把握していて、5センチ以上の木を伐採してはならないことになっています。だから、伐採できない。伐採するには、いちいち届け出なければならない。だから、現場では必要な都度、届け出なければならない。そんな国がありますか。5センチ以上の木は全部登録される。見事なものです。


≪ 日本はプロフェッショナルが多い国 ≫

??5センチ以上の木を守る現場がある。日本のそういう良き伝統みたいなもので、他に何か思い浮かべることがありませんか。

曽野 やはり、日本人は働き者、正直者だと思います。そして、日本にはプロが多い。例えば、1時間100円の賃金だとすると、何とかして120円、150円に上げたいのが普通の考え方ですが、プロにはそういう思考がない。私は、これは日本の宝だと思っているんですよ。

 日本財団の関連財団に米日財団というのがあって、その招きでアメリカ政府の元閣僚が来られ、ご一緒したことがありますが、その方が6つの金ボタンのついているブレザーのボタンを1つなくしてしまったと、私に言うんですね。「困った。これから東南アジアを回らなくてはならないし、太ったおなかを隠せない」と言うわけです。それで私、泊まったホテルに「アメリカ人がボタンをなくして困っている。おたく、落とし物の金色のボタンがたくさんあるでしょうから、1つください」と言いいました。模様は何でもいいから、金ボタンをつけておけば分からないと思ったわけです。そしたら、「あてずっぽうで差し上げるわけにはいきません。お客さんはいつご到着だったのでしょうか」と言う。「会議が昨日から今日までありましたので、一昨日か昨日の朝にお見えになったのではないでしょうか」と答えたら、しばらくしてその人が「ご覧になっていただきたいものがありますから、フロントにいらしてください」と言ってきた。「それでは、明日の朝飯のときに行きます」と答え、翌朝、フロントに行ったら、曽野様と書いてあるのがあって、そこに金ボタンが入っていた。私は、そのアメリカ人に「これで我慢してつけていただけますか」と言ったら、そのボタンが彼がつけていた模様の金ボタンだったんですよ。つまり、ホテル中の落とし物を一つ所に集め、何月何日の分と分類して、お客の問い合わせに応えるような仕組みができているわけです。これがプロです。こんなことが日本では山のようにあります。

 例えば、鎌倉彫の人なんて、1つの茶托をつくるのに、何日かかるか。早くつくるのもプロなら、ゆっくりやるのもプロです。時間あたりの労働賃金で計算しないのがプロで、その比率の多い国が日本なんです。

??そういう話に枚挙のいとまがない?

曽野 私の友達が原稿を持ってタクシーに乗ったら、タクシーが海に落ちたんですよ。タクシーの運転手は溺れてしまったんですが、友人は原稿の入ったかばんをつかみ、片手でドアを開けて泳いで助かったそうです。奥さんは旦那が生きて帰ったので、もう嬉しくて有難くて、そしたら、数日たってから、彼が「ああ、俺、老眼鏡をなくした」と言うので、奥さんは「眼鏡があなたの身代わりになったと思えば」と言ったんですって。それから、数週間たってから、人身事故だったから、そこの警察がダイバーを使って車を引き上げ、「もしや、あなたのものではないですか」と現場の海底から拾い上げてきた眼鏡を送ってきた。ダイバーは、言われた以上のことをしたわけです。もしや、というIf I were。推測、仮定を頭に入れて仕事をする。これはなかなかできないことです。すごいですよ、日本人は。

≪ 本を読まなくなり、精神性がなくなった ≫

??大事なのは教育ということになるのでしょうか。

曽野 日本はよき国ですから、この恵まれた国を私たちが努力して保っていかなければなりません。学校が駄目なら自分で教育をする、教科書が悪いなら、自分で解釈しなおす。先生方も親が悪いなんて言ってないで、できることをしていけばいいのです。親の方も、先生が教育してくれないから、と言わないで、敬語を教えることや、しつけはご自分ですればいい。そう思いますね。

??私が子供の頃のことですが、親戚のおやじが国鉄の機関士をやっていて、毎日、毎日、風呂敷に弁当箱を包んで、朝決まった時間に家の前を通った。親はその姿を見て「ほら、あのおじさんが行くから、もう学校に行かなきゃ」と私の尻を叩く。だけど、はっきり覚えています。あの人は実直だったと。

曽野 素敵ですね。

??今の日本人は自信がないというか、あるいは自信がないことも意識しないで唯々諾々と過ごしている。一方、外国人はゆっくり沈みゆく太陽というように見ている面もあるようですが。

曽野 もともと日本は尊敬されていません。技術国家としては尊敬されていて、かつては「ジャパニーズ・ザ・コピーヤー」と呼ばれた国が日本独自のものをつくるようになりました。しかし、本を読まなくなったからでしょうか、精神性がない。

??新聞を読まない大学生が多いそうですからね。大学院の学生にどうして本を読まないかと聞いたら、インターネットで分かるからって。

曽野 あれ、全部出ているんですか?

??全部出ていないけど、大きいニュース、スポーツ、芸能ネタは分かります。

曽野 インターネットの情報で小説は書けません。もうありとあらゆる手を使って、周辺のデータを集めて私は書きます。インターネットなんかでは分かりません。

??どうやって、取材をする人との人間関係をつくるんですか。

曽野 現場取材をするでしょ。私の場合、30分以内に、絶対この人だという人を2、3人見つける。これは私の特技かもしれません。その人の後にしたがって、かばん持ちをせんばかりにして、取材をします。

??眼力ですね。

曽野 感覚です。


≪ 都市再開発はシンガポールに学ぶべきだ ≫

??ところで、日本の都市再生が議論の的になっていますが、どのような街づくりが理想だとお考えですか。

曽野 日本は、中国より社会主義が強いから、街づくりがなっていませんね。私、暑い国が好きなものですから、シンガポールでも暮らしているんですが、シンガポールの街並みの美しさは強権でつくられたともいえます。夏にシンガポールに行くと人に言うと、「なんでまた、わざわざ暑いとこに行くの」と不思議がられますが、実は日本よりシンガポールの方がずっと涼しいんですよ。気温は日本と同じようなものかもしれませんが、ビルとビルの間に広いグリーンベルトがあるので、輻射熱というのがほとんどない。

 都市再開発にあたっては、「ここはこういう道にするから」と言って、そこに住んでいる住民をそこから退去させる。やはり、街づくりにあたっては、もう少し強制的に市民に協力させるようにしないと駄目だと思うんですよ。

 私は今、田園調布という所に昭和10年から住んでいます。今は建物がちょっと変わりましたが、田舎の家みたいに縁側の先に柿の木がある家に住んでいて、この街の生え抜きみたいな存在ですが、そこは第一種低層住居専用地域になっています。容積率が少なくて、古い住民はみんな参っているんですよ。私は、駅から500メートル以内は全部高層化を義務づけるべきだと思います。そうすれば、駅から歩いていける所に、何十倍もの人が住める。私は、そのために立ち退けと言われたら、そうします。今の都市計画は合理的ではありません。

??曽野さんの家も500メートル以内に入る?

曽野 入ります。東京の街は、もっとグリーンベルトを広くして、10階、20階、30階の建物の建築を駅から500メートル以内の所まで義務づければ、人々の通勤がうんと楽になります。現状のままで良いとする考え方はおかしいと思います。

??伝統的な日本の住まいの良さもあると思いますが。

曽野 前の家は寒くていやでしたよ。換気良好そのもの。断熱材もないし、もう寒くて寒くて仕方がありませんでした。それで、隣に舅、姑が住んでいた家を壊して、プレハブの家を建てましたが、暖かくていいですね。

 ところで、伊勢神宮のご遷宮は実に素晴らしいと思いますね。私カソリックなんですけど、伊勢神宮の大ファンです。200年先まで材木の手当てができている。あれは日本の1つの文化ですよ。何百年も保つお寺も西洋にあってもいいけど、20年に1度遷宮するのも素晴らしい知恵ですね。私も、こちらに住んでいたと思ったら、すぐ隣の地所に家をつくって入り、こちらの家を崩すことをやりたい。それがほぼ20年周期で、伊勢神宮方式だったらいいです。

??昔の知恵が生きているわけですね。

曽野 送電線の鉄塔工事の取材に行ったことがありましたが、コンピュータ化する前には現場で鉄塔を組み立てようとすると、穴が開いていないことがあったんですって。今は100%ありません。そういう実例を見ると、マスプロダクションやプレファブリケーションに傾いてしまう。しかし、文化は両輪のようになければならないから、宮大工さんを大事にするために、松下幸之助さんのようなお金持ちが本当の日本建築を建てる場合には免税にするような、もう少し柔軟な考えをすればいいんじゃないでしょうか。ただ、私自身は、日本伝統の建築は好みません。20年でつぶれてもいいから、便利な方を選びたいですね。


日本人はもっと危機感を持つべきだ

??今度ブッシュさんが来て、国会で演説して、福沢諭吉の「コンペティション論」をもとに日本も改革する力がある、維新をやればいいという話をしたら、みんな拍手をしている。そんなことを外国人に言われるとは何と情けないことかと思いましたが。

曽野 今は福沢諭吉なんて読まないですよ。諭吉がお札を踏むと罰が当たると言われて、本当にそうかと思ってお便所に行って踏んでみたら何でもなかったという話、おもしろいですね。

??危機がもっと深刻にならないと、日本人は真剣にならないのかもしれません。

曽野 そうかもしれません。浅間山荘事件のことを伺ったことがありますが、山荘に突入した人は志願だったそうですね。誰も志願しないと思ったら、全員志願した。海外青年協力隊で、海外に行く前にはぼんやりしていた怠惰な男の子が、向こうで荒れ地を自分の手で開墾して、緑の畑にしているうちに見違えるように引き締まる。日本人にもう少し危機感を与え、奉仕活動を義務づける必要がありますね。

??その動きが自発的に出ればいいですね。

曽野 教育はすべて、最初は強制なんです。そのうちに、自分で選ぶようになりますからね。

 遠藤周作さんは「ネコ」という名の犬を飼っていたそうですが、そういうイタズラも子供のときの反動でしょうね。動物学的には犬だから犬と書くことを強制された。だから、彼は大きくなって、犬に「ネコ」と名づけて仕返しするわけですよ。私は強制が創造力を呼び、まっとうな反抗精神を生むと思っています。強制は悪いことでは全くないんですよ。お家元だって、みんな強制から始まるでしょう。

??それで駄目なら直せばいいんですよね。

曽野 いやならいつでもやめればいいんですよ。

??家族のあり方が問題になっていますが。

曽野 家というのは器ではなく、その中でどういう会話をし、どういう人生観と好みを持ちながら暮らしているかが問題です。決してすべて円満じゃなく、お父さんはのんべえだとか、お母さんは朝起きないとか、押し入れの中が目茶苦茶だとか、それぞれの家庭には何か問題があるわけですよ。そういういびつなところを愛していくのが家庭です。そういう自然なところを大事にしたらよろしいんじゃないでしょうか。

??どうも有難うございました。
 



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