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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: アンケート?本来いい加減なものなのだ  
コラム名: 自分の顔相手の顔 513  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2002/03/19  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   アンケートというものは、民主主義の風潮の上に発生した不思議な制度である。私の思い過ごしかもしれないが、雑誌などで、アンケートによって記事を作ろうとする風潮が見える時には、その雑誌はもちろん、その社まで、衰退の方向に向かっている。

 「皆が望む商品」「衆目の一致するところ」などというものは、民主主義の原則を重んじつつ市場調査も怠っていないようでいて、実はその部のトップの責任逃れの□実になっていることが多い。「一般的な考え方」を軽視するわけではないが、この危機的時代にあっては、事業の改革にも繋がらなければ、特徴あるオピニオンを開発することにもならない。存在の価値があるのは、多くの場合、人の考えない創造的発想を持つこと、と、その根本を支える哲学と論理の筋が一本常にきっちりと通っていることであって、人がどう考えるかということはさしたる問題ではない。

 裏話も記しておこう。

 アンケートの返答の中には、この際、かねがね考えていた意見をぜひ有効に使ってもらおうとして、張り切って答えを書いて来る人ももちろんいる。しかしアンケートというものは、本来無礼な要素を持っている。私は財団職員と作家という2つの仕事の他に、料理、庭仕事、「片づけ魔」的性癖などがあって家事にも時間を割くからアンケートなど書いていられない。第一送られて来るアンケートは、「書きます」と約束したわけでもないのに、放置すると催促が来る。他人の労力や時間を何とも思っていない証拠である。

 そもそも多くの人が学生時代にたくさんのアンケートを書かされて、それらをいかにいい加減な心情で書いたかよくよく思い知ったはずだろうに、と思う。私の周囲の人たちは、ほとんどアンケートといえば、適当に嘘も混ぜて答えを埋めていた。それなのに、いい年をしてもアンケートがかなり信憑性のある事実を示すなどと思っている人がかなりいる、からこういう企画が出て来る。中には、アンケート調査のために、そうとうな額の費用の支出を容認している企業や組識も少なくないはずである。

 市場調査とアンケートは別物だと私は思っている。日本人の足の大きさやウェストの寸法、年齢によって抜け落ちる歯の本数、1年に食べるお握りの数や洗濯石鹸の量などというものは、売上商ではっきりと出て来る。しかしアンケートは未来を抑えているようで、事実はまことにいい加減なものなのだ。
 



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