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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: 浸透した西欧音楽?財団が普及、発展に貢献  
コラム名: 新地球巷談 7  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2002/02/25  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   テレビの画面から、タクトを振る小澤征爾氏の熱が伝わってきます。2002年の年明けを告げた元旦のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサート。ウィーンからのテレビ中継を、私は、ある種の感慨をもって聴いていました。

 「世界のオザワ」として知られ、各国を代表するオーケストラを指揮してきた小澤氏ではあっても、ウィーン・フィルの、それも輝かしい新年公演の指揮棒を振ることは格別であり、まさに日本の音楽史に画期的な1ページを記すものとなりました。日本の西欧音楽とのかかわりは、明治維新以降およそ135年の歴史になります。それは主に、人材育成を含めて西欧社会からの一方通行の“受け入れ”といえます。そうした日本の音楽家が、全世界に通用する高い普遍性を示したのが今年の年頭でした。

 世界の各国・地域にはそれぞれ固有の音楽文化があります。なかでも西欧音楽は、世界的な広がりを見せるようになりました。西欧音楽は「世界の共通語」ともいえる存在となっています。共通語としての西欧音楽を一方的に甘受するだけではなく、普及、発展に貢献できないだろうか、そうした目的で設立された姉妹財団『日本音楽財団』では、1994年から西欧古楽器の購入と若手音楽家への無償貸与を続けています。

 『ストラディバリウス』という名前を聞かれた方も多いでしょう。イタリアの弦楽器製作者、アントニオ・ストラディバリが作り上げた弦楽器の名器を指します。1644年、弦楽器作りで知られた北イタリアのクレモナに生まれたストラディバリは、1737年に亡くなるまでおよそ1千挺の弦楽器、主としてバイオリンを製作しました。16世紀末から18世紀にかけて欧州で隆盛を極めたバロックの時代、宮廷音楽の演奏者のために作られ、豊かな音量と音色で知られました。

 現存するストラディバリウスは600挺ほどで、300年を経た今もフルオーケストラに伍して大きなホールの隅々にまで豊かな音量を響かせ、甘美な音色を奏でています。「人間の手になる世界文化遺産」と賞され、世界に名の通った弦楽奏者はほとんどストラディバリウスを使っています。

 弦楽奏者を志す音楽家にとって一度は手にしたいあこがれの名器なのですが、いざ購入するとなると億単位の価格となり、若手奏者には簡単に手のでるものではありません。そこで、日本音楽財団で楽器を購入し若手奏者に相当期間、無償で貸与する事業を始めました。

 94年、イタリアの名奏者で作曲家のニコロ・パガニーニが所有していた『パガニーニ・カルテット』を購入したのが始まりで、現在ではストラディバリウス14挺(バイオリン11挺、チェロ2挺、ビオラ1挺)とグァリネリウス・デル・ジェスのバイオリン2挺を所有しています。そして、東京カルテットをはじめ、ヴィヴィアン・ハグナーや樫本大進、スティーブン・イッサーリスといった奏者に貸与されています。日本を代表するバイオリニスト、諏訪内晶子さんにも昨年夏から、ハイフェッツがかつて使っていた1714年製のストラディバリウス「ドルフィン」が貸与され、活躍の一助となっています。

 バブル期、絵画や彫刻などの買いあさりが話題となり、それらが企業や個人の元で“死蔵”されていたことが批判されました。西欧古楽器もまた、生かして芸術の質を高めるために使われなければ死蔵のそしりをうけます。世界の音楽文化の普及、発展のための貸与事業が定着してきましたが、135年間のお世話に少しでも恩返しができたかと思います。(日本財団理事長)
 

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