共通ヘッダを読みとばす

日本財団 図書館

日本財団

Topアーカイブざいだん模様著者別記事数 > ざいだん模様情報
著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 成人式?記念行事は自分で考えることだ  
コラム名: 自分の顔相手の顔 499  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2002/01/23  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   もう改めて書くのもめんどうな気がするのだが、一部の成人式の愚劣さは眼を覆うばかりだった。理由は簡単で、大人に信念がなく、甘やかしているからである。

 両親と来れば騒がないだろうとか、始めから会場を遊園地にするとか、何で甘やかすのだろう。われわれ税金を払っている者としては、どうして愚かでしかも心が一向に成人していない小心者のために、そんなにお金を使うのか、と思う。

 教室とか、式典の場とかいうものには、始めから約束ごとがある。それは、私語したり、途中から出て行ったりしない場所だということだ。それが嫌なら、最初からそんなところに行かなければいいのだ。別に成人式に行かないからと言って、退学にもならず、就職にも差し支えないのだから、行かない自由は厳然として残されている。

 新聞で写真を見ただけだが、女性たちの着物姿も興ざめだった。同じような白いショールをかけている人がたくさんいる。制服ではないのだ。人と同じような服装はしない、というのが最低の個性の表れだろう。

 男子の着物姿にいたってはあまりのおかしさに、私の周囲では皆がむしろ楽しんだようである。髪を金色に染めて、着物と羽織が同じ色の、タレント落語家の衣装である。しかも同じ色の着物が何十人といる。ご苦労さまにそんな滑稽な姿で暴れるのだという。自分のみじめさに途中から気がついたかどうか。

 成人の記念行事は自分で考えることだ。いくらでもある。1冊の本を読む。その日母親に手料理を食べさせる(どんなに下手でもいい)。自画像を描く。遺書を書く。どこかの大地に人知れず木を1本植える。定期預金をする。その日1日にしたことを細大漏らさず記録する。1枚の音楽のCDを買う。1個の石を拾う。ボランティア・サービスをする。30キロ歩く。スポーツの試合に行く。父といい酒を飲む。

 酒は父親のおごりにすれば、どれも大して金がかからないことばかりだ。あの滑稽なタレント落語家風のダサイ衣装の借り賃とだって、比較にならないほど安く上がるだろう。しかもこれらは誰からも強制されていない。すべて自分の責任で選択したものばかり。これこそ自由な若者たちの望むところだろう。

 成人式をやめれば予算も確実に数百万円は浮く。予算はこういう風にして地道に無駄を省くものだ。地方自治体がどうしても成人の催しに一枚噛みたければ、後で「私の成人記念」のアイディアを募集して、爽やかな企画に賞を出せばいい。
 



日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION
Copyright(C)The Nippon Foundation