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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: フォーラム2000?「時の氏神」秘密接触  
コラム名: 新地球巷談 4  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2001/11/26  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   21世紀最初の年、2001年も残りわずかとなりました。新世紀の世界秩序を話し合う「フォーラム2000」が10月末、チェコの首都プラハで開催されました。

 とかく国際会議は大国がイニシアチブを取りがちですが、「フォーラム2000」は、地味であっても深く掘り下げた議論のできる場を小国が開催し、広く世界に情報発信すべきではないかとの私の考えに、チェコのハベル大統領が賛同され、5年前から年に1度、プラハ城で開催してきたものです。

 9月11日の米中枢同時テロ以降、次々とキャンセルされる国際会議の中で初めての会議開催となりました。当初、開催を危ぶむ向きもありましたが、クリントン前米大統領、ワイツゼッカー元独大統領ら政治家、学者、ジャーナリスト約50人が集まり「グローバリゼーションと人権」というテーマで熱のこもった討議がなされました。

 会議内容もさることながら、今回注目されるべきは国際政治に直結する1つの政治的接触が秘密裏に行われたことでしょう。イスラエルとパレスチナ自治政府との接触です。米英軍によるアフガニスタン空爆のそもそもの遠因は、パレスチナ問題にあります。イスラエルとパレスチナの関係は同時テロ直前から激しい衝突が再燃し、第三者の介入を許さない緊迫した状況下にありました。

 ハベル大統領の人柄によって、プラハ会議にはイスラエル、パレスチナ双方の代表、さらにはヨルダンのハッサン王子がレギュラー・メンバーとして参加していました。今年はイスラエルから首相経験のあるペレス外相が、パレスチナからは独立系研究機関PSIA所長のアブドル・ハーディ博士らがアラファト自治政府議長の了解を得て参加していました。

 当事者間の秘密接触は、ハベル大統領とハッサン王子が「時の氏神」になり、私と南アフリカのデクラーク元大統領が立会人となって大統領公邸で行われました。6時間に及んだ接触は、双方銃を所持していたら撃ち合い間違いなしの怒鳴り合いとののしり合いに終始しました。

 宗教、言語、生活習慣が異なり、日々血を流し合っている人々が、一朝にして和解することなど有り得ません。接触は、「なんらの合意もなく、ただ対話の重要性を双方が認識した」ことをもって終了しました。

 日中の接触のあと、深夜、パレスチナから新たに重要人物がプラハに飛来し、クリントン前米大統領をはさんで余人を交えぬ秘密会議が夜を徹してもたれたのです。私はその内容については知り得ませんし、また知らなくともよいことです。

 ところで、今回の「時の氏神」の1人、ハッサン王子は翌日しみじみと私に語りかけました。

 「皆さんは簡単に平和を口にするが、アラブ世界では平和は嫌悪される言葉だ。平和という言葉にアラブ世界に住む人間は幾度となく裏切られ、煮え湯を飲まされてきた。アラブの民はこの言葉の偽善性を見抜いており、この言葉を軽々に発する欧米の人々を信頼していない」

 そう語るハッサン王子の表情は深い苦悩と悲しみに満ちていました。

 平和を金科玉条のごとく振りかざす政党やマスコミが多い日本では、到底考えられないことかもしれません。しかし、このハッサン王子の一言こそが、国際政治の冷厳な現実なのです。

 後日、イスラエル、パレスチナ双方の代表から個別に謝意をうけました。「秘密接触への尽力に感謝する。われわれは日本に強い信頼を抱いている。今後、中東での日本の役割を大いに期待している」と。(日本財団理事長)
 

「フォーラム2000」のホームページへ(英語)  


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