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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 勇気のない世代?他に職業はいくらでもある  
コラム名: 自分の顔相手の顔 488  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/12/04  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   年を取ってますます意地悪バアさんになり、口も悪くなったと思って聞いて頂きたい。

 このごろの男たちの女々しい姿は眼に余る。イージス艦が出る出ないの前に、アフガニスタン沖に向かう自衛艦に乗り込む隊員の態度の報道のされ方について、私だけでなく複数の人が「あれは何だ」と思ったらしい。

 わずか数力月行くくらいに、べたべたしたお別れも必要ないだろう。商社マンも数力月間アラブ諸国に出張するだろうが、妻が成田まで見送らない人の方が多いだろう。と思う。制服を着て子供など抱くな、という感想は昔の兵隊さん風にしても、マスコミはどうせ自分の書きたいように話を持って行こうとしてインタビューしているのだから、その手にのるような光景や言葉は控えるくらいの配慮がなぜないのか。

 自衛隊員とタクシー乗務員と、どちらが危険の率が高いか、実は私はよく知らないのだが、愛国心も使命感も全くなく、危険もイヤなら、現代の日本では自衛隊員にならねばならないことはないのだから、そのような職業にはつかないことである。ついておいて責任感のない言葉は吐くのは見苦しい。

 先日、或る新聞の夕刊を読んでいたら、ニューヨークのNBCテレビのあるロックフェラーセンターに出かけた新聞記者の文章があった。そのビルでも炭疽菌が出た騒ぎがあったそうで、その人は「勇んで乗り込んだものの、感染の二次被害を考えると恐怖感で足どりが鈍り」「『どこまで近づけるか、いや近づくべきか』と悩むうちに、建物の正面に着いてしまった」とある。

 炭疽菌がそんなに恐いなら、こういう取材を断るべきだろう。それより以前に、新聞記者という職業をやめるべきだ、と思う。カメラマンとか記者とかいう職業は、異常事態発生の現場に行くことを、潜在的に承認していなければならない。危険を避けるなら、他に職業はいくらでもある。大学教授でも、お豆腐屋さんでも、自転車屋さんでも、生け花の先生でも、少しは安全度が高かろう。
 
 勇気のない世代が、勇気がないことを平気で世間に公表して憚らない。情ない話だ。それなら「嘘をついていればいい作家におなりなさい」とまたもや言いたくなるが、私でも、墜落事故が重なった上、テロの対象になるならアメリカの飛行機だろうという世評の真っ只中に、アメリカン航空に乗ってアメリカに行って来た。作家でも、約束なら守らねばならない場合もある。当然のことだ。
 



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