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著者: 山田 吉彦  
記事タイトル: 変わりゆく海賊  
コラム名: マラッカ海峡の町から 最終回  
出版物名: 海上の友  
出版社名: (財)日本海事広報協会  
発行日: 2001/10/21  
※この記事は、著者と日本海事広報協会の許諾を得て転載したものです。
日本海事広報協会に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど日本海事広報協会の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   2001年9月6日付けロイズリストによるとインドネシアの反政府組織「自由アチェ運動」は、「マラッカ海峡を通航する船舶は、自由アチェ運動の許可を得なければならない」と宣言している。事実、自由アチェ運動は、8月25日スマトラ島北西のバンダル・アチェ沖にて石炭輸送中のタグボート「Ocean Silver号」を襲撃し、乗組員6人を人質に捕り、船主に対し身代金の要求を行った。人質は、船主と犯人側との交渉の結果すでに開放されているが、当初、犯人側が要求していた身代金2億5000ルピア(約3500万円)が支払われたかどうかは定かではない。

 最近、身代金目的の海賊事件が多発している。IMB(国際商業会議所国際海事局)パイラシー・レポート・センターの報告によると2001年上半期の海賊事件発生件数は、165件、このうち東南アジア海域が90と大半をしめている。また、身代金要求の海賊事件は8件発生しており、5件が金銭の支払いで解決している。身代金目的の海賊事件は、フィリピン南部・ボルネオ島北部地域、インドネシア北西部のアチェなど反政府ゲリラが活動する地域で多く発生していることからゲリラ型海賊と呼ぶ。

 海賊問題が社会的に注目されたのは、1998年9月に起こった「テンユー号」事件以降である。98年から2000年初頭にかけて、船と積み荷を奪うシンジケート型ハイジャック事件が多発した。1996年10月、「アロンドラ・レインボー号」ハイジャック事件が発生、日本人が被害にあったこともあり、日本国内でも海賊事件が大問題となった。その後、日本の海上保安庁を中心にアジア地域における海賊対策の国際協力体制が構築されるようになると多国籍犯罪シンジケートは海賊から手を引くようになった。

 2000年に入ると、インドネシア海域を中心として、夜間スピードボートで船に近づき、物とり目的で襲う海賊が増加した。これは、アジアの貧困が大きな原因であり、生活海賊もしくは、村ぐるみ、地域ぐるみで海賊グループを組織することからロビンフット海賊と呼ばれる。

 シンジケート型、ロビンフット型と海賊の形態は、短い期間の間に様変わりしてきた。変わりゆく海賊に対処するためには、さらなる国際協力体制が必要となっている。2001年10月4日、5日、日本の外務省の主催でアジア地域海賊防止協力会議が東京で開催された。会議にはアジア各国の海上警備機関と船社の代表が参加し、新たな海賊対策として国際協力協定の締結などが話し合われた。ここ数年、海賊対策に関する国際会議が数多く開催されてきた。参加するメンバーも顔馴染となり、回を重ねるごとに議論も活発となっている。

 現在、海賊対策に関する国際会議が開催されるとロビーの中心には、日本財団の寺島紘士常務理事かいる。寺島は、1999年10月シンガポール船主協会主催の海賊対策セミナーでの発言をはじめとし、数多くの国際会議の場で、海賊対策に関する国際協力の重要性をアピールしてきた。また、マラッカ海峡の航行安全の確保のための費用負担に関しても、国連海洋法条約にもとづき、国際舞台で論陣を張っている。アジア各国の海事関係者のなかには寺島の理解者が多い。寺島は、アジアの国々が、海上交通の安全確保のために、それぞれ国力に合わせ費用と責任の分担をして行くことが重要であると訴える。

 アジアの海を守るためには、早急に国際協力のルール作りをする必要があろう。変化してゆく海賊やその他の海上犯罪、海洋環境汚染にも対応できるような柔軟な国際協力体制が求められる。

 数回行われた海賊対策の会議を契機に、国境を越えた「海上の友」の輪が広がりつつある。アジア各国を代表する海事担当者たちの輪である。アジアの海の明日は、「海上の友」の協力により支えられよう。(敬称略)
 

IMB(国際商業会議所国際海事局)のホームページへ  


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