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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: グローバリゼーション?為政者の志が日本救う  
コラム名: 新地球巷談 2  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2001/09/24  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   金融の自由化と歩調を合わせて、「グローバリズム」あるいは「グローバリゼーション」という動きが活発化してきました。そこには、経済に始まりあらゆる分野において、世界を自分たちの基準に合わせることを正当化させようとする米国のねらいがありました。

 日本の社会はしかし、あたかも「世界の潮流」のごとく、無防備に受け入れてしまいました。

 日本人がいままで持ってきた生活習慣、価値観に何の検証も加えず、安易に「世界の流れ」「これはいいことだ」と受け入れてしまったところに問題があるのです。

 この国には「共生」という価値観がありました。強い者は強い者なりに、弱い者は弱い者なりに、混然一体となって生きてきました。例えば、祭りや警防、消防などで地域がどれほど助け合ってきたことでしょう。

 いわば「和の精神」で生きてきた民族です。それがある日突然、グローバルスタンダードの名の下に、強い者はどこまでも強く、弱い者は徹底的にたたかれる「弱肉強食のアングロ・サクソン的価値観を無批判に受け入れる、これは第二次世界大戦以来の衝撃です。「第二の敗戦」と言い換えてもいいでしょう。

 いとも簡単に良き伝統を放棄し、そのあげく、どうしていいか分からない状態で右往左往しているというのが、今の日本の姿なのです。

 リストラによる失業者の増加が、社会現象になっています。これまで私たちの社会は、苦しい時は苦しいなりに節約し、歯を食いしばって「終身雇用」を守ってきました。それが今や、経営者は価値観を変え、グローバリゼーションを隠れ蓑に社員の首を切ることが当然のようになり、それによって責任を問われることもありません。労働組合も今こそ労働者の雇用を守るため、「会社が苦しいなら賃金を下げても」と痛みを分かち合う時にもかかわらず、唯々諾々と流れに従っているのは、役割の放棄と言わざるを得ないでしょう。

 「和魂洋才」という言葉がありますが、明治時代の日本人は、欧米の文化を日本の価値観に置き換えて受け入れていました。しかし、今は米国の力の価値観を無批判に受け入れるだけで、「グローバル」の名の下に古来の文化や伝統、独自の価値観といった大切なものを失っていっています。これではまるで「根無し草」であり、決して国際社会で尊敬されるはずはありません。

 こうした状況で大事なのが為政者の志です。

 マレーシアのマハティール首相は、アジアが経済危機に見舞われた時に国際的な投機家であるジョージ・ソロス氏が米国経済界と裏でつながり、アジア経済を混乱に陥れていると批判、「一国の国民が営々と築いてきた財産を三日や一週間で根刮ぎ簒奪する行為は許せない」と敢然と反撃し、ソロス氏の“侵略”を食い止めました。欧州の為政者たちは、欧州連合(EU)という地域主義を強くうちだすことで米国に対抗しました。日本でも、それができないはずはありません。

 小泉純一郎首相は「変人」と呼ばれています。それは永田町の価値観での変人であって、むしろ首相の「何ものも恐れない」「孤独に耐える」姿勢こそ世界の為政者に共通したものであり、日本の価値観を大切にしようとする主張は国際社会に容認されうるものです。今こそ、日本の独自性を世界に発信し、この国が失った自信を取り戻す絶好の機会だと思います。
 



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