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著者: 山田 吉彦  
記事タイトル: 自主分離通航方式は着実に浸透  
コラム名: 日本の生命線を守る 4  
出版物名: 海上の友  
出版社名: (財)日本海事広報協会  
発行日: 2000/02/11  
※この記事は、著者と日本海事広報協会の許諾を得て転載したものです。
日本海事広報協会に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど日本海事広報協会の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   マラッカ・シンガポール海峡は、年間四万隻を超える船舶が航行している。海峡を通航する大型船は、東行き・西行きに分かれ、総延長五百キロメートルにおよぶ長さの定められた航路(分離通航帯)を航行しなければならない。
 マラッカ・シンガポール海峡のような船舶の往来の激しい海域では、航行する船舶の流れを制御する必要があり、分離通航帯が設けられる。現在世界では、百カ所を超える海域で分離通航帯が設定され、航行管制が行われ、海上の安全が確保されている。
 船舶の往来のとくに激しい海域は、輻輳海域と呼ばれる。その中で、マラッカ・シンガポール海峡、ドーバー海峡、日本沿岸海域が、世界三大輻輳海域と言われ、通航にあたっては、細心の注意を必要とする船乗り泣かせの海域である。
 世界三大輻輳海域の中で、日本沿岸海域だけが分離通航方式を採用していない。
 日本沿岸海域の外洋のうち、とくに太平洋岸の犬吠埼(千葉県)沖から日ノ御埼(和歌山県)沖間の海域は、神戸、大阪、名古屋、東京、横浜などの特定重要港湾と呼ばれる大規模な港を結ぶ大動脈であり、大型タンカーから小型の内航船まで引っ切りなしに航行する要注意海域である。また、変化に富んだ海岸線が、恰好な漁場となり、数多くの漁船が出漁している。最近では、プレジャーボートや遊漁船の数も多く、いっそう往来が激しくなり、海難事故につながりかねない要因を孕んでいる。
 平成八年の一年間に日本沿岸海域で発生した船舶衝突事故は、二百三十七件にのぼる。この内、犬吠埼沖〜日ノ御埼沖間での事故は、五十五件であり、船舶の沈没や乗組員の死亡事故などの重大事故四件が含まれている。
 日本船長協会は、昭和四十五年、日本沿岸の太平洋側に分離通航方式を自主設定した。これは、安全な操船の責任を持つ船長たちが、船舶通航の情況、取るべき安全対策を実体験をもとに分析、検討を行い作成したものである。その後、船長協会は、会員の船長を対象にアンケート調査を行い、その結果をもとに昭和六十一年に海上保安庁の了解を得て分離通航帯の見直しを行っている。
 しかし、最近では、船舶の種類の多様化、大型化、高速化が進行しており、さらなる改善が必要となっている。
 平成十一年、日本船長協会は、日本財団の補助金を受け日本沿岸の分離通航方式の改正に着手した。この事業の一環として行った潮岬沖の船舶通航量観測では、二日間で実に九百三十隻もの船舶を観測しており、日本沿岸海域で輻輳する船舶のすさまじさが証明された。
 昔から海に生活の糧を求めてきた漁民は、当然のこととして自分たちのテリトリーとしてきた沿岸海域に船を出す。景気の低迷により、内航船舶は、厳しい経営を強いられており、経費節減のため最短距離の沿岸航路を選ぶ気持ちもわかる。
 ともに海で生きている人間たちが、一つ間違えば大惨事になりかねない海上でのルールづくりを行うため、船長協会の調整により自主的に研究を重ねてきたものが、この自主分離通航方式である。
 自主分離通航方式は、法的拘束力はないものの、海外の船舶運航者にも理解され、着実に浸透してきている。
 世界を代表する輻輳海域、マラッカ・シンガポール海峡の新分離通航帯は、平成十年にIMO(国際海事機関)により設定された。実は、この新分離通航帯は、日本船長協会が、マレーシアに提案したものが原案になり設定されている。
 日本船長協会では、菊地会長、澤山專務理事をはじめとした関係者が協力し、実体験に基づき、世界と日本を結ぶ道、海上の安全の確保のため努力を続けている。
 



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