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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: 日本人妻里帰り問題 1)  
コラム名: 地球巷談 30  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 1997/07/27  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  大局に立った交渉姿勢を
 サッチャーさんについてはしばしお休みにし、これから三回は番外編として北朝鮮に関連した話をします。
 先月二十一日より四日間、私は北朝鮮を訪問し金正日書記の側近から「日本人妻の里帰りを認める」との確約を取り付けました。そして、その確約通り、今月十七日、北朝鮮はアジア太平洋委員会の名称を使って正式に「日本人妻の里帰りを無条件で認める」旨を発表しました。今回の平壌入りは、務め先の日本財団から休暇を取り、すべて自弁の一私人としてのものでした。それだけに、北朝鮮側の発表を聞いたとき、万感迫るものがありました。
 昭和三十四年、日本と北朝鮮は「帰還協定」を結びました。協定に基づき、在日朝鮮人の妻として北朝鮮に渡った日本人女性、いわゆる日本人妻は千八百人前後といわれています。しかし、日本人妻の里帰りをこれまで北朝鮮は一切認めませんでした。この問題を北朝鮮は日本との国交正常化の切り札のひとつとして考えていたようです。
 日本人妻の方々の年齢は、現在では七十歳をこえていることでしょう。望郷の念はつのる一方のはずです。たとえ、国籍は北朝鮮であっても、彼女たちは日本人です。同胞の里帰り実現に汗を流すのは当然のこと。私はかねがねこうした日本人妻の里帰りをなんとか実現すべき方法を模索してきました。
 ここで、北朝鮮の政策決定システムに触れておく必要があります。行政府の上に朝鮮労働党があり、その頂点に立つのが金正日書記です。忠誠心競走の弊害もあります。二重構造の政策決定システムを経て、トップに届く情報は苦みを取り除いた上澄みだけとなります。政策の最終決定には時間がかかり、加えて肝心のトップの判断材料が極端に不足しています。日朝の政府間非公式折衝がもたつくのもこのためです。
 私は、解決のためにはトップもしくは側近中の側近に直談判する以外に方法はないとの考えに至りました。これは、九二年に故金日成主席に面会して以来、私がひそかに里帰りを実現すべく種々のチャンネルを使って工作を試みた末の結論でした。今回、私が平壌を訪れたのは、金正日書記に直接意見具申できる数少ない側近中の側近に面談することができるとの見通しがあったからです。
 ともあれ、北朝鮮からのシグナルを受け、今月十九日より、北京での政府間非公式交渉が始まりました。私の長年の夢だった日本人妻の里帰りが、ようやく日の目を見ようとしています。些事にとらわれず、大局に立った日本政府の交渉姿勢を望んでやみません。
 



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