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著者: 青柳 光昌  
記事タイトル: 福祉車両担当者大いに語る  
コラム名: 座談会   
出版物名: コマーシャルモーター  
出版社名: シー・エム出版社  
発行日: 1997/08  
※この記事は、著者とシー・エム出版社の許諾を得て転載したものです。
シー・エム出版社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなどシー・エム出版社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   障害者や高齢者の有効な移動手段としてクルマは欠かせない。そして、そうした人たちの移動のためにふさわしい機能を持ったクルマ??それが福祉車両だ。
 「高齢社会」の到来をも背景に、近年、その普及は急速に拡大、福祉車両そのものも、乗車する高齢者や障害者にとっての安全性・快適性はもちろんのこと、介護する人の負担の軽減の面等々、めざましい進化をみている。また、パーソナルユースから医療施設・福祉施設など法人向け、さらには身体の不自由な人たち自らが運転できるクルマ(運転補助装置付き車両や運転補助装置等)など、それぞれのユースに適した多様なクルマが展開され、日々、その進展をみている。
 こうしたなか、日本財団がボランティア支援策の一環として毎年実施している福祉車両寄贈事業も年々拡大しつつ、ことし4年目を迎えた。また、(社)日本自動車工業会では福祉車両の利用を促進する社会基盤整備を目途に「福祉車両ワーキンググループ」をことし5月に設置、取り組みを開始する等々、将来の超高齢社会への対応をも視野に、各方面で、福祉車両を通しての、身体の不自由な人が社会参加しやすい体制・墓盤も着々と整備されつつある。
 そこで、本誌では、障害者や高齢者と健常者が“ともに暮らしあえる社会実現のために”と、そんな願いも込めて??、福祉車両メーカーならびに日本財団各位にお集まりいただき『利用しやすい社会基盤整備と多様な市場特性に応える福祉車両の姿を求めて』をテーマに「福祉車両座談会」を開催、出席者各位のご意見ご開陳を願った。
 
 
ご出席者(発言順)
 
トヨタ自動車株式会社 第3開発センター 製品企画 主査
 斉藤 隆氏
 
株式会社オーテックジャパン 企画室 課長
 児玉 芳記氏
 
三菱自動車工業株式会社 乗用車営業本部 乗用車特装部 グループ長
 堤 隆則氏
 
マツダ産業株式会社 東京事務所 所長
 小野 英男氏
 
ホンダ特装株式会社 企画課長
 網倉 邦俊氏
 
富士重工業株式会社 国内営業本部 特販部特販課 課長代理
 長島 弘行氏
 
日本財団((財)日本船舶振興会) ボランティア支援部 事業企画課 係長
 青柳 光昌氏
 
 
高齢者と15歳以下が双方15%となる交差点
ことしは福祉車両の転換期
 
??高齢社会、福祉社会といわれるなかでそれに対応する福祉車両となると多様なニーズに応えていかなければならないと思うのですが、福祉車両を取り巻く環境をどうとらえていらっしゃるか、市場分析と各社さんの取り組みについてお聞かせください
 
斉藤(トヨタ自動車) 高齢化、高福祉化が急速に進展しており、ことしは福祉車両にとって転換期になるのではないかと考えています。なかなか正確な数字がつかめない業界なんですが、わたしどもだけの数字でいうと、1990年の規模に対して96年は大体5倍ぐらい、昨年は2600台前後になっています。市場全体では4500から5000台くらいと推定しています。背景には厚生省のゴールドプランの実施により、在宅介護に大きくシフトしていることなどがあげられます。現在65歳以上の高齢者が15%を占めており、2015年には25%になるという大きなトレンドがあります。ことしがエポックメイキングになるといっているのは、15歳以下の人口比率が15%を割りました。つまり高齢者が増え、若年層が減っていくなかで両方が15%という交差点に差しかかったのが、ことしなのです。
 これから高齢化が急速に進みます。ここまでこの市場を大きくしてきたのは、施設向けの車両です。当社製品でいえばリアリフト型で車いすが乗り込める1トンバンクラスですが、96年には年間1500台くらい導入されて市場を引っ張ってきました。ところが去年あたりから、個人向けの需要が増えてきまして、ことしは多分逆転して個人向けのほうが多くなるのではないか。業界全体でも、軽自動車を中心にパーソナルユースが増えてくると予測しています。
 自動車工業会としてもこの分野の重要性を認識して、5月から「福祉車両ワーキンググループ」をスタートさせました。まず現状把握、より普及を図るための告知・広報活動、さらに関係業界や行政への要望など、いままで各社でバラバラに対応していたものを、もっと協調して、業界として衆知を集めてこの分野に取り組もうとしています。
 
児玉(オーテックジャバン) やはり市場は伸びています。当社の販売実績をみても、去年に比べて1.5倍ぐらいの規模になっていますが、その中身は、施設向けにチェアキャブが順調に推移しており、さらにおととし、去年あたりから個人向けのものが急激に伸びています。この個人向けのクルマについては、ニーズに合ったものを出せば売れるけれども、既存の商品の販売台数も減らないという状況なんです。まだモノが足りていなくて、出せばその分オンする、そんな市場の状況だとみています。ユーザーも障害者だけでなく高齢者も含めた将来的な広がりを感じています。わたしどもは日産自動車の特装部門を担っているわけですが、これからは量産車と特装車が一緒になって、市場に足りない部分をどう埋めていくかということになるでしょう。
 
堤(三菱自動車工業) 基本的にはおふた方の意見と同じです。三菱では1990年の6月に軽自動車とデリカで法人向けの車両をつくったのです。翌年、あるボランティア団体から要請があってつくったシャリオがパーソナルユースの発端になりました。これが実はニールダウンという方式で、ヨーロッパやアメリカで非常に増えている。ただ値段が高い。もっと安くできないかということで軽自動車の方に力を入れ始めたのです。最初はバンでつくっていましたが、95年の7月にミニカトッポを出して、これが台数的には非常に伸びてきている。軽の市場全体の数字をみると、94年が143台、95年が666台、96年が1703台と倍々ゲーム以上の伸び方をしています。ことしこれが2000台を突破するのは間違いなく、どこまでいくか期待しています。
 もうひとつの見方としては、障害者の方にもふた通りありまして、介護をどうしても必要とする方、あるいは車いすで移動する方、これに対して自分でクルマを運転する方に分けられると思うのです。後者の、運転補助装置が着いたクルマというのは歴史が長くて20年以上前からあります。うちだけでも年間500〜600台出ていて、そんなに大きな動きはない。業界全体でも5000台ぐらいの規模とみています。これに対して、車側に回転補助シートとか乗りやすい機構をつけたのが94年です。
 一方で、高齢者向けの商品を出したのが昨年のことなのです。今後の高齢者化にともない、要望が多くあるので力を入れていきたいと思っています。急ぎの対応は特装でやっていますが、メーカーオプションで取り組んでいくことを進めています。メーカーオプションでできれば値段は安くなるが、その分、数も売れなければならないという難しい面もあります。
 これから先、究極的なものとすれば、障害者の方であっても、介護を受けずに自分でなんでもできるということが、障害者が望まれていることでもありまして、メーカーとして取り組みを強めていかなければならないと考えています。
 
 
各社とも特性を生かした福祉車両づくり
多様な車両・装置が市場に
 
小野(マツダ産業) わたしどもは「開発のできる特装会社」という位置づけにあります。マツダの福祉車両という大きな切り口で考えますと、昭和35年の秋に360クーぺというクルマを出しました。このなかにオートマチックがあり、これは当時のモータリゼーションのなかでかなり障害者向けに機能してきたと思います。また、当時マツダの社長は足が不自由だったもので「わたしにも運転できるクルマをつくってくれ」ということになり、レバーを引くとアクセル、前に倒すとブレーキというクルマをつくって実際に販売したこともあります。
 それからファミリアなどで福祉車両には対応してきましたが、本格的に取り組んだのはゴールドプラン、新ゴールドプランを受けてからです。キャロル i というクルマは、軽のFF乗用車スタイルのセダンで、これの後ろの床を下げ、屋根をちょっと上げてアーム、配管を処理してスペースをつくり、折りたたみスロープを付けました。この機構によって、簡単に車いすごと乗せて移送するというクルマです。3年前の1年間は旧型キャロルで220台売れました。翌年は新型になって300台。その後はAZ?ワゴン i を同じ手法でやりまして、月に30台平均で出しています。キャロル i の福祉車両がなぜ生まれたかというと、当初は綿密に調査して始めたわけではなくて、クルマ屋としてこの分野にどうしたらお手伝いができるかという気持ちでした。メーカーとしては大所高所から福祉に対して取り組んでいかなければいけないのですが、「何ができるか」ということからこのクルマが開発されたわけです。
 キャロル i のこれまでの導入先は、約500台のうち個人ユースと施設・団体ユースが4割づつ、残りがデモカーとかその他法人などで使われています。
 販売していて感じることは、つくる側はもちろんですが、使う側も勉強されるなり慣れるなりしていただかないと。そこから本当のニーズが出てきて、つくる側もそれに応えることができると思うのです。
 福祉のクルマに対して、ユーザーはまず高いという。200万円だというと、普通の軽自動車は80万円だから儲けすぎだといわれる。企業だから赤字ではできませんが、決して儲けてはいないんだと。もっと数が増えれば安くできますが、数を増やすためには今度は種類を増やさなければならない。これがまた大変な問題でして頭を抱えています。
 ただ、軽自動車がおかげさまでみなさんに使っていただけるようになりまして、次にはうちのクルマでいうとデミオでやろうと、先ごろの大阪の展示会に参考出品しました。
 
網倉(ホンダ特装) ホンダの場合は、他社さんと開発経緯が異なるのですが、福祉車両に関してはもともパーソナルユースの分野で開発を続けてきました。身障者用車両の運転補助装置に関しては1966年のN360のオートマチックモデルに始まりました。以降、75年にはホンダ初の運転補助装置付き車両を身障者用免許試験車として警視庁の府中試験場に納入しました。翌年には「ホンダ・テックマチックシステム」の名称でシビック用の補助装置を発売開始しました。82年には「ホンダ・フランツシステム」を社会に送りだしています。
 以来、ホンダは、パーソナルユースを中心に開発から販売までを行ってきています。発売当初は、まだ車種が少なくてシビックとアコードくらいだったんですが、それから今日に至るまで相当種類は増えました。増えてもホンダが販売する車種にはすべて運転補助装置は付けるというのが当社元来のポリシーです。
 ここにきて、3年ほど前から補助装置だけでなくて介護車を開発してくれという要望が販社を経由してお客さまから相当入ってきましたが、それに見合うような箱がない状況だったのです。しかし、アクティシリーズで要望に応えようと、立ち上げたのが95年です。幸いにして、軽でも居住性を高めようと、ハイルーフを専用設計したということで、使い勝手も含めて評価され、それ相当の数が出たのです。ただ、固定装置の問題にぶつかりまして、社内でもいろいろ議論がありました。わたしはいつも思うのですが、カーメーカーと車いすメーカーとは全然接点がないんですね。
 ただ、最近は、マツダ産業さんがすばらしい固定装置を開発されましたね。そこで、小野さんの方からもコストの話が出ましたけれども、このように汎用性のある製品を各社共同で使って、コストを下げて市場にもっと多く出していったらいいのではないかと思います。この話は、自工会のワーキンググループでも課題になっています。
 いずれにしましても、特装車というのは、開発、台数背景との絡みで開発費がかかる世界でして、さらに販売部隊の方にもあまり知られていないなど、いろんな課題を抱えているのが現状だと思います。
 そして、身障者と高齢者で分けて考えるのではなくて、どこかの時点で同軸になるはずなのです。人間は必ず歳を取っていくわけですから、誰かが誰かを介護しなければならなくなる。その移動手段として介護車両が必要になる。ホンダもこれまで箱がなかったのですが、ステップワゴンが最近発売されまして、これを移送車両として使えるのではないかと考えています。
 
長島(富士重工業) わたしは特販部に席がありまして、ここにご出席の方々と違って、どちらかというと販売に近いことをやっています。現状認識をしますと、スバルの車は福祉関係で遅れていると考えていまして、障害者の方が自分で運転する補助装置付の車両に関してもメーカーとしては開発しておらず、専門メーカーの製品を使って対応しています。
 介護車両の方は1980年から開発を始めまして、翌81年から市場に出しています。この車両は、車いすを車内に乗せるためのスロープを付けるという単純なものでした。続いてリフター付きを昨年の2月から投入、ことしの4月には、車いすまで必要としなくても、足腰が弱い方に向けた車両をラインアップに加えています。
 実際に販売していて感じることは、うちの開発陣が精力を傾けてつくったクルマでも、現場で簡単に否定されてしまうことがある。ユーザー個人個人によってニーズがまったく違ってきます。たとえばリフターが付いたクルマは左サイドから乗り降りする形なのですが、後ろでないと駄目だとか、あるいは右がいいとか、それぞれ要望が違うのです。ですから、つくる側としては、このような要望に細かく応えていくと同時に、いかに安くつくっていくかが課題になると思います。
 
??トヨタさん、福祉車両と関わってきた経緯について補足していただければと思いますが
 
斉藤 トヨタの福祉車両は昭和40年代からグループのボデーメーカーでスタートしています。現在はTECSというトヨタブランドのメーカー完成特装車として販売しています。
 1981年に荷役省力用リフト付きのクルマを改造してハイエースハンディキャブという形で出しました。大きく伸び出したのは89年のフルモデルチェンジ以降ですね。さらに最近は、サイドリフトアップシートや助手席回転シートなどの新分野を伸ばしてきました。
 運転補助装置付車は、当初コロナやマーク(2)、カローラに設定がありました。ユーザーによってニーズが異なるという状況が典型的に出るのがこの市場でして、障害の程度によってコントロールアームの位置やストロークも違うわけです。当社としてはまったく不得意な分野で、だんだん後退してきまして、現状ではカローラとスプリンターの2車種で対応しています。
 ただ、メーカーならではの部分、たとえば専用のドライバーズシートや、パワステの操作力を軽減などの新しい提案をいくつかしています。販売実績は年間40台ぐらいです。この分野としては、ホンダさんのやり方を見習って、キットの販売とか、補助装置は付いてなくても、それを載せやすくした車両を提供しています。
 自動車業界としてもこの分野の特性に合わせて仕組みをつくっていかなければならないと思っています。告知にしても1社でやっていたのでは、対象がすごく広くてバラバラだし、商品としても1社でフルバリエーションを揃えるのは大変です。つくっていないタイプであれば「うちにはないけど、どこそこの会社にありますよ」と紹介できればよいのではないでしょうか。
 
 
拡大している日本財団の福祉車両寄贈事業
ハードに使う、ボランティア
 
??日本財団さんでは、福祉車両を買い上げて寄贈する福祉車両寄贈事業を展開しておられますが…
 
青柳(日本財団) たまたま本日ご出席のメンバーは、6社すべて当財団から指定車種を発注しています。これからもよろしくお願いします。財団では30年来、各自治体に福祉施設、特別養護老人ホームなどの建設に関して、その費用の補助を行ってきました。これは今でも続けていますが、在宅福祉が注目され、これまで施設を増やしていったこととは別に、自宅から通って療養するデイケアが浮上してきました。そこで必要となるのが移送用の車両で、これまでの建設費に加えて、デイサービスセンターをつくるところに車両費の補助も開始したわけです。これが、購入費の補助から、クルマそのものを寄贈するようになったのが平成に入ってからになります。当初はマイクロバスが中心で、車いすが固定できる簡単な装置を付けていました。
 そして、このようなデイケアを実施している民間団体もあるということで、平成6年度からボランティア支援部で車両の寄贈を開始しています。実績は6年度は3車種を設定して合計51件、7年度からマイクロバスがなくなり、77件、8年度は103件で、3年間の合計で231団体に寄贈しています。このうちの半分が法人格を持たない任意団体で、ボランティアや、障害者の方が通っている作業所などです。残りの半分がデイサービスセンターの機能を持っている施設になります。
 
??寄贈先からの車両評価はいかがですか
 
青柳 各団体からのクルマに関する要望、クレームも含めてヒアリングはしています。クレームで多いのは車いすの固定装置ですね。これらをどうメーカーさんの方にフィードバックしていくか、いろいろやっていますが、なかなか数が集まらなかったり、使用環境がバラバラで、これをデータとしてまとめることに苦労しています。ただ、1年を経過した時点で、各団体から寄贈した車両の評価は頂いていまして、これがまとまり次第メーカーさんの方にフィードバックしています。
 
??今年度も寄贈台数は増えそうですか
 
青柳 ニーズがかなりありまして、過去の実績からみても50、70、100台ときているのでトータルで120〜130台にはなるのではないかと。ほかにもクルマを提供している組織がありまして、たとえば24時間テレビとか、赤い羽根共同募金がありますが、当財団としては、なるべく車種を固定しないで、選択肢を広げていくことを考えています。
 
??車両の実際の使われ方は
 
青柳 デイサービスの施設では、朝晩の送迎が一般的ですが、なるべく稼働率を高めていただくように、日中は障害者・高齢者の方を乗せて外に出るとか、あるいはほかの必要としている団体に貸し出していただくようにお願いしています。ただ、使用頻度や走行距離などあまり多くないというのが現状です。ほかの組織からの寄贈例では、マイクロバス1台をもらっても、山間部などにあまり入っていけない、これなら軽自動車の方がよいという話も聞いています。
 また、自治体の施設では、動く時間や活動範囲に制限があって、なかなか障害者・高齢者の希望に応じられないという実情があります。これに対して民間の方は、障害者の希望に添って頻繁に配車するなど、自由な対応をしています。人の面でボランティアの人数も多いですから。使い方もどちらかといえばハードですね。たとえば、重度障害の方の電動車いすを1日に何回も上げ下ろししたりすることもあります。こういう現場では、リフトがどうしても必要だと思いますし、また、メーカーさんが自信を持ってつくったクルマも壊れたりする。数や頻度が多い民間の方のほうがクルマに対する要望は多いと思いますね。
 
 
増えている、自らの運転志向の障害者
高まる運転補助装置ニーズ
 
??運転を支援する補助装置の取り組みについてお聞かせください
 
網倉 補助装置はホンダ特装で手がけて4年になりますが、それ以前は鈴鹿サーキットランドですべて開発していました。シビックの補助装置を出したときに、足の不自由なあるドライバーからホンダに寄せられた言葉があります。「わたしたち身障者にとってクルマは必需品です。クルマは自立の大きな手助けになるのです」と。この言葉を現在に至るまで開発コンセプトとして残しています。
 現在、補助装置は20機種に4タイプずつ揃えて選択ができるようにしています。これらをすべて新車が出るつど対応できるようにしていますから、このコストを考えたらたいへんです。トータルでも年間1000台程度で、マイナスにならないようにしていくのが目標です。
 
堤 当社は、補助装置に関してはメーカーとしての開発はしておらず、専門メーカーから供給を受けています。これは営業マンがこのような商談に接する機会が少ないうえに、商品としてつくるにはあまりにも領域が広く、商品知識という面でも対応が難しいということになります。
 ただし、メーカーとしてベースになるクルマヘの乗り込みやすさと、乗車後の車いすの収納のしやすさなど、周辺の部分の対応は進めています。
 
児玉 わたしどもはマーチに運転補助装置を付けていますが、これも専門メーカーから供給を受けています。ただ、これだけではなく、運転席を回転式にして乗りやすくし、同時にパワステの操舵力を半分にして、クルマ全体の使いやすさを考えた商品としてカタログをつくっています。通常のクルマと同じような感覚で商談ができるようにしているわけです。ベース車に関していえば、全ての日産車に設定したいところですが、費用が膨大になります。そこで、日産の全系列で扱っているマーチにしたわけです。
 いわば看板ということで、このマーチをみていただいて、ブルーバードでできないかといわれれば個別に対応するということです。
 最近では、パワステだけでなくブレーキの踏力も軽減してほしいという要望も多いですね。
 
??運転補助装置の付いたクルマの市場規模はどのくらいですか
 
堤 これは統計も出ていませんが、専門メーカーに聞いた話では、全需で5000〜6000台ということです。
 
網倉 1991年のデータでは全部で1万2000台あって、そのうち2000台が移送車両であると。残りが1万ですが、これは軽微なものも含めてのことでしょう。いずれにせよ、当時で1万台ですから、現在はもっと増えていると思います。
 
 
乗り降り面など、車両構造上の障害を解消
バリアフリーのクルマづくり
 
??“バリアフリー”というコンセプトが、クルマにますます求められるようになってきましたね
 
斉藤 バリアフリーの考え方は、クルマヘの乗り降りや車いすの搭載に際して、車両構造上の障害(バリア)を解消していこうとするものです。フロアの高いワンボックス車では、シートが車外に降りてくればもっと乗り込みやすいだろう。そういう視点にたって開発した車両をバリアフリーと考えています。
 しかし、今は福祉車両が一般化の方向にあると思います。バリアを意識してそれを取り除いていこうと特別視することから、あって当り前という考え方の時期に来ていると思うのです。お客さんの要望には、そんな大袈裟なクルマでなくて、普段使う乗用車に福祉車両が欲しいというのがある。しかし、乗用車の天井は低いし、ドア幅は狭いし、健常者であっても乗るときは体を縮めなければならないわけだから、できればお奨めしたくないのです。ですが、お客さんの気持ちからすれば、普通の、みんなが使っているクルマの中から選択したいのです。特別な車として使いたくないのですね。たとえば40歳代、50歳代の女性が高齢の親を看護するとなると、クルマはその看護だけに使うわけではないのです。そのあたりがこれからの課題です。
 
??ニーズに合わせるのは本当に難しいでしょうね
 
児玉 先日、日産の福祉車両展でこんなシーンがありました。シートが下に降りてくる車両をみていた人が「これは、うちのおじいちゃんが乗り降りするのによい」と感心したのですが、「でも、うちの駐車場では、塀にぶつかってしまいそうね」と話していました。お客さまのニーズなり状況は様ざまですので、まだまだバリエーションを増やしていく必要があると思います。
 もうひとつ大事なことは、当社のアンシャンテシリーズの車いす収納装置ですが、これは外せるようにしてあって、外せばクルマ自体は普通に使える。どうも、この「普通に使える」が福祉車両開発のキーワードになるのではないかと思うのです。
 ほかの業界で何かないかというと、いまホームエレベーターが年間3000台と、この4〜5年の間に4倍に伸びており、3階建ての住宅の5%に普及しているそうです。これも、高齢者や障害者の方だけでなく、みんなが普通に使えることで普及しているよい例だと思います。
 
小野 クルマをつくっていく上で難しいのは、最終的に、人間を運ぶのか、物を運ぶのか、ということになります。わたしどももいろいろやっているのですが、吊り下げる方式は評判がいまいちでした。ある施設で、看護士の若い女性に「何とかしてください」といわれまして、これは車内に入っていくものなんですが、女性はどうしても抵抗があると。おばあちゃんがこれ乗ってくるのはいやがるというのです。
 
青柳 車両を開発する場合に、どの程度のモニタリングやサンプリングをされているのでしょうか。
 
斉藤 特装というのは、基本的にニーズがあってそれにお応えしていくものです。たとえば、重いものを載せるならクレーン車、冷たくして運ぶために冷凍車をつくるわけです。企画型の特装車両が開発されるようになったのは、ごく最近ではないかと思うのです。青柳さんがおっしゃるような、サンプリングしてニーズが何%あったからやってみようという例は、まだ少ないのではないでしょうか。もちろん、試作車をリハビリセンターなどに持ちこんでご意見をうかがうとかの努力はしています。マーケティングデータだけでは処理できない部分が多いですね。
 福祉車両の開発では、むしろ発想の方を重視します。シートが車外に降りてくるサイドリフトアップシートの場合は、モーターショーに出品されたクルマで、大きなトラックに乗るときに大変だから、シートが降りてくるクルマがあってそれがヒントになっているのです。
 
堤 あれはうちのトラックです(笑)。モーターショーに出しました。
 トラックの場合は1件でも商談があると、開発にかかります。コストはかかってもお客さんと相談してやっていきます。それでできたものを「特装ニュース」という簡易な媒体があって、それに掲載して販社に告知します。これをセールスがみて、新しい商談に結びついた例があります。
 ミニカトッポは去年約360台出ているのですが、このクルマができたいきさつというのは、車いすのまま移動するのは苦痛だから、シートで移動したいという要望があって、シート付きのリフトを装備して、それがスライドで入り込む機構にしたわけです。これを先ほどのニュースで流したところ、車いすからシートに乗り移るのが大変だから、やっぱり車いすのまま乗りたいという反応の方が多かったわけです。いくら背が高いミニカトッポでも、車いすのまま載せられない。そこで、屋根を切って上げてみたんですが、これはコストがかかる。次に床を切って下げてスロープを付けた。ニールダウン方式ですね。これが結果的に反響がよくて昨年度360台売れた、今のクルマなんです。
 ニールダウンが主流になっていますが、これには2種類あるんですね。床を最初から切っているものと、床そのものが下がる方式と。
 
斉藤 トヨタには床の低いクルマ(軽自動車)がないから、ニールダウンには手が出ないのです。手をこまねいている状態。10度の傾斜のスロープをうちのクルマでつくろうとすると長さが2mを超えてしまう。
 それと改造費のことですが、先ほど軽自動車で80万円の車が200万円になってしまうという話が出ましたけれど、普通車だとべースのクルマそのものの値段が高いから、改造費も制限されてしまう。ボデー構造としても、軽自動車の方が、室内高も大きいし、福祉車両へのアプローチはしやすいのではないかと思いますね。
 コストの面からは、富士重工さんのやってるステップが出てくるタイプのようなものに注目しているのですが。あまり改造費をかけなくても、ちょっとしたサポートで、十分使えるお客さんは多いと思うのです。
 
長島 あのステップについては、いろいろな評価があるのですが、簡単な仕組みで結構役に立つということで、発想自体は間違っていないと思っています。
 
??相当安いんですか
 
長島 10万円ぐらいだと思います。
 
堤 軽自動車でニールダウン式車いす仕様の架装は90万円で、100万円を切ったところなのです。ただ、もっと安くならないかという声がありまして、一例をあげると、父親が40歳で子供さんを介護している。「こんなに天井は高くなくていいし、自分の力で十分乗せられるから、装備もあまりいらない。クルマは3年ぐらいで買い替えるから安くして欲しい」というわけです。ほかにも「こんな重装備は必要ないから安くして」という要望は多いですね。こういうニーズに応えて、用途を限定した安い車も必要ではないかと開発を進めています。それと元に戻しやすい。ナンバーも8ナンバーから戻せるようなクルマを出そうとトライしています。
 
斉藤 それは必要ですね。簡単に取り付けられて元に戻せるタイプを「アドオン」といいます。介護する時期はそう長くはない。あるいは状況は変化すると考えるユーザーがいます。風呂やベッドなど介護用品にはレンタル商品さえある。外せば普通のクルマに戻る、あるいは今あるクルマに後付けできるというコンセプトは重要ですね。車いす仕様車などは、フロアを改造しているから元には戻らない。これも使い勝手を優先して、特別な構造にした結果なんですが。
 
小野 納車して3ヵ月したら患者が亡くなってしまった、という例もあります。「元に戻してくれ」というのですが、これはつくるよりもお金がかかります。かといって、中古車市場もかっちりしていません。ディーラーに働きかけてはいるのですが。
 
 
コストセーブの上からも装置の共用化を
障害者ニーズに応えた装置
 
??財団さんがいらっしゃるので、ユーザーの悩み、あるいは車両に関する要望などをお聞きしたいのですが
 
青柳 寄贈先から6年度は報告をいただいただけ。7年度は車両に関する評価表や○、△などで印象を聞いています。全体的にみますと、法人関係はやはりあまり悪いことは書いてこないですね。良い、悪いといってきてくれるのは民間のボランティア団体の方が多い。
 
??マツダ産業さんでは、財団さんの納車先団体を訪問しておられるようですが…
 
小野 キャロル i を納めた施設では、最初のときはワンタッチのロック装置でやりまして、これがうちの専用の車いすでないと付かないようになっていまして、この車いすがどうしても安くならない。折り畳みもできないし、ホイルベースも決まっているし。そこで、電動ワイヤーで引っ張り込む「Eロック」方式にしたら、これが大変好評だった。1年間で300台以上売れました。これに自信を得て、床が平らなクルマに載せようと、みなさんにご協力を得て、固定装置の「Eロック」を単独でこ提供して、採用していただこうと考えているのです。
 
斉藤 全体の量が少ないのだから、各社で独自につくっていくのではなくて、ある程度オープンにして共同で使っていこうという発想は、これからも必要だと思いますね。財団さんの方でEロックを指定されたケースがあるようですが、本来ならばこういうことは、コストをセーブするという意味で、メーカーがもっと自主的にやらなければいけない。
 
青柳 利用者が求めているのは、値段の面もありますが、もうひとつは、健常者と同じように「クルマを選択したい」ということだと思うのです。障害者や高齢者であっても、やはり普通に乗れるクルマに福祉車の設定が欲しいと。「この車でつくって」といわれたときに、どこまでその対応ができるかということがポイントになると思うのです。極端な話、1000万円出してもそのクルマに乗りたいという人もいるのではないでしょうか。健常者は、お金さえあればいろいろ選択が可能ですが、クルマはあるのに、「福祉車用の対応はできません」ということになると問題ではないかと思うのです。
 
堤 やはりお客さんの希望で、シャリオでつくって700万円ぐらいかかってしまったことがあるのです。これは1台で終わりかと思っていたのですが、欲しいという人がいまして、結局25台ぐらい売りました。お金を出しても欲しいという方はこのようにいるのですが、やはり多くの方の望みはもっと安くですね。
 
児玉 現在、自動車は量産効果で相当安くできていますから、お客さんが高くなってもよいといわれても、実際にかかる費用は一ケタ違ってしまうようなギャップがあります。トラックなどの商用車になると、ビジネス的にペイするならば発注いただけますが、パーソナルユースだと難しい面があります。
 
 
福祉車両の利用を促進する基盤整備めざす
自工会、福祉車両WGが発足
 
??斎藤さん、先ほどちょっと触れられましたが、自工会で「福祉車両のワーキンググループ」がスタートしましたね。その目的とするところなど、具体的にお話しいただけますか
 
斉藤 日本自動車工業会のワーキンググループは5月にスタートしまして、まだ委員会の構成を決めたという段階です。組織された背景のひとつは、福祉車両が増えてきたなかで、業界として実態を把握しようということ。ふたつ目は対外的な窓口も一本化する必要があります。これまで各社がばらばらに対応してきたものをまとめていこうというもの。3番目としては基盤整備で、業界として協調し、さらに関連団体や行政に働きかけをしていく。こうした活動を通じて福祉車両の健全な育成を図りたい。
 当面の課題のひとつに、車両と車いすの問題があります。車いすにはJISがあるのだけれども、実態はばらばらです。フロアヘの固定化の装置をつくるにも、共通のフレームがないわけです。それから、安全面でもエアバッグの加害性やチャイルドシートが問題になっているいま、車いすの安全性についてもクローズアップされてくるのではないかと思います。衝突したときに、脚部が折れてしまうようなことはないのかどうか。昭和60年ごろの基準で運用されていますから…。
 それと大切なのは告知活動です。どこに行けば福祉車両の情報が聞けるか、どういう福祉車両があるのか、意外と知られていない。これも1社でやるのではなくて、何か共同でイベントを組んだりすることも必要だ、と考えています。
 また、先ほどから出ているように、安くつくるために行政側への働きかけもしていきたい。いろんな意見を出し合って、議論してまとめていきたいと思います。
 
 
今後、障害者・高齢者の双方への対応が課題
広がる福祉車両のジャンル
 
??これからの福祉車両は、身体の不自由な人を対象とする厳密な意味での福祉ジャンルだけでなく、高齢者対応として車側の領域がかなり広がってくると思いますが、各社の今後に向けての考え方、対応についてお聞かせください
 
児玉 社内では福祉車両という呼び方をせずに、“ライフケアビークル”、「LV」と称しています。このめざすところは、ユニバーサルデザイン、つまり、“誰にも乗りやすい、運転しやすいクルマ”をつくっていこうということです。高齢者が増えると同時に、高齢者の運転免許証保有率も高まっています。「歳をとったから運転はしません」といえる人は幸せで、郊外に老夫婦だけで住んでいたらどうしてもその足が必要になるわけです。このため、高齢者が使いやすい車を量産車として出していくことが必要だと考えてもいます。しかもそれは高齢者専用車ではなく、若い人にも受け入れられるようなクルマであることが普及のポイントです。
 
小野 これからの高齢化・福祉を大きく考えれば、クルマのメーカーとしては超低床化を進めなければいけないと思うのです。その意味で、バスの動きに注目しているわけですが、高さが歩道に近づけば近づくほど乗り降りが楽になるわけでして、最近、ヨーロッパの路面電車では、地上高19.8cmも開発されて見直されていると聞きます。ですから、自動車メーカーとしては乗用車でもRVにしても床を低く。ヨイショといって乗り込んだり、飛び降りるのではだめでしょうね。
 
長島 販売サイドからいいますと、福祉車両というくくりが特別にあるのではなく、普通のクルマのカタログを開いていくと、そのなかのバリエーションとして出てくる、というところをめざしています。当社は後発で、数が少ないからできるわけですが、現在、お客さんを1件づつ訪問して、お話をうかがっています。地道にやっていくしかないと考えています。
 
網倉 いまおっしゃったように、この分野は地道にやっていくしかないと思います。大局的にいいますと、2015年を問わず、クルマの業界だけでなく、建設業界でもそれぞれの持ち分で、多くの課題を抱えているわけです。ですから、2015年に入る前に、自動車メーカーとしては行政とタイアップして何ができるのか、どうすべきかを固めないと課題が大きすぎると思います。
 福祉車に絞っていえば、まず行政の指針が出て、その指針に沿って、公共機関も含めてトータルで構築していかないと、アンマッチが出てしまうのではないかと。そういう意味で海外は相当進んでいます。早い時期から埋められるものを埋めていかないと、課せられたものが大きすぎると思います。
 
堤 高齢者向けの車両の考え方としては、まず、高齢者の方が自分で運転する車両の場合は、わたしどもでいうとランサー、ギャランとか一般に売られているクルマのラインアップに、高齢者の方が選択したくなるような類別を設定(ただし、この類別は「高齢者向け」と特定はしない)し提供していく方法と、高齢者の方が運転するのに便利なオプションを用意し対応していく方法があると思います。
 次に、高齢者の方の介護を目的とした車両の場合、要望される仕様は障害者の介護用とは基本的には同一のものと考えますが、介護を必要とする高齢者の場合、痴呆が入ってくる可能性があり、介護者への協力が見込めないため、障害者の方の移送を目的とした車両より改造内容がさらに高度となることが考えられるので、実態の把握と、さらに研究を進めたいと考えています。
 
斉藤 今後のあり方としては、“あって当り前”という状態をどうやってつくっていくかが大きな問題だと思っています。先ほど、長島さんからもそういうご意見がありましたが、クルマをつくるにしても、できるだけその企画の早い時点からアプローチしていくことを指向しています。最近でいうと、ラウムやノアで、回転シートを付けたり、車いすが乗せやすい仕様にしたりと、まだ少しですがそういうことをやっています。できるだけ、こういうことを開発の前段階にもち込んでやっていくことが重要だと思っています。
 もうひとつ気になっているのは、“高齢者イコール障害者”ということはないので、これからはもっともっと元気なお年寄りが増える。それも児玉さんがいったように、免許証をもった方が。だけど高齢者向けというような売り方はできない、やっても売れない。福祉車両はこのあたりに目配りをしていくことが重要です。2015年になったときに、しまったと思わないように。
 
青柳 4年近く寄贈活動を続けているなかで、利用者の声をメーカーさんにフィードバックしていくことが大きな課題です。ハードを配って終わるだけでなくて、意見を聞いていくことでソフトの組み立てもできてくると思うのです。その意味でこれから細かい注文を出すこともあるかと思いますが、よろしくお願いします。
 
??どうも長時間にわたりありがとうございました。

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