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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: 北朝鮮 故金日成主席 3)  
コラム名: 地球巷談 3  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 1997/01/19  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  3時間半に及んだ会見
 米国のカーター元大統領の訪朝のアイデアを金主席に提案したことは、前回紹介しました。金主席の対米認識は「強者が弱者をいじめている」というものでした。
 「米国は韓国と組んで軍事演習チームスピリッツと称し兵力を展開する。先力は演習というがわれわれにとっては戦争そのもの。対抗兵力を展開しなければならない。この経済的負担は重い。加えて、核問題にからめて軍事施設を見せよという。世界に軍事施設を公開する為政者なぞいない」
 金主席の米国批判は長々と続きました。
 そして米国批判の締めくくりに出たのが「しかし、信頼できる米国人がいるなら軍事施設を見せてもよい。だれか信頼できる人物はいませんか」との一言でした。
 私は即座に古くからの友人カーター元米大統領の名をあげました。私は帰国後、隠密裏に折衝を開始、九三年一月、クリントン大統領の就任式参席の折、国務省の一室で直接カーター元米大統領に訪朝を要請し、カーター元大統領は在韓米軍撤退問題を議題としないことを唯一の条件に快諾しました。これがカーター元米大統領訪朝への端緒となったのです。
 三時間半に及んだ会見も終わりに近づき、子息の金正日書記に会見したい旨を申し入れました。金主席は「次回是非お会い頂きたい」といいながら「親ばかと思われるだろうが、息子は革命世代の老人たちをとても大事にしてくれる」と相好を崩しました。金主席の息子金正日へのかわいがり様を十分にうかがい知ることができました。と同時に、「革命世代を大事にしてくれる」の一言に、敬老が人格評価の重要な基準である儒教国北朝鮮での金正日書記への体制移行が、着実かつ巧妙に進められていることがよく分かりました。
 ところで、会見中に出された食事は焼き肉など、ごくありふれた料理でしたが米飯はおいしく「日本のコシヒカリでは」と思わず尋ねてしまいました。金主席は「純北朝鮮産です」と胸を張って答えていました。が、食糧事情からみて、金主席のため特別農場で栽培されたものなのでしょう。
 デザートのスイカも実においしいものでした。父の良一が大のスイカ好きであることを話したからでしょうか、二十個もの大スイカがお土産として帰国時の飛行機に積み込まれていました。
 会見を通じての金主席への印象は、強烈な威圧感を与えながらも人の意見を良く聴く柔軟な頭脳の持ち主、というものです。今少し長命であったら(九四年七月八日死亡)、朝鮮半島情勢も違った展開を見せたかもしれません。
 



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