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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: ゴルバチョフ元ソ連大統領 5)  
コラム名: 地球巷談 27  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 1997/07/06  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  “ひのき舞台”は一度限り
 ゴルバチョフさんは現在、財団を設立し地球環境問題や安全保障問題などについてのシンポジウムを開催し、元気に世界各地を飛び回っています。
 ゴルバチョフ財団のオフィスはモスクワ市内のはずれにあるソ連共産党幹部学校のなかにあります。この建物は、宿泊施設ありプールありのホテルなみの施設です。ゴルバチョフさんは、大統領職を退いた後、エリツィン現ロシア大統領からこの施設全部の使用権利をもらいました。が、次第にその権利が侵食されごく普通のオフィススペースのみ使用が許されているのが現状。いささか落魄(らくはく)の感があります。
 この五月、オフィスを訪ねた私は「昨年のロシア大統領選挙への出馬は間違いではなかったのか」と聞いてみました。ゴルバチョフさんの顔はみるみるうちに真っ赤になりました。えりを正しての答えは「民主改革派のヤブリンスキーや民族派のレベジなど中間勢力を結集させるべくその調停役を果たそうとした。間違ってはいない」。
 私にはこの答えは全くの言い訳にしか聞こえませんでした。彼は、今一度政治の世界で現役として活躍することを夢見ていたのです。昨年の大統領選挙の最中に会った折は、遊説先のシベリアで暴漢に殴られた直後にもかかわらず、意気軒高そのもの、ようやく出番が回ってきたといった感じでした。「すずめ百まで踊り忘れず」。彼はいまだに政治権力の頂点に立ったときの絶頂感が忘れられないのだと思います。政治の世界には功なり名を遂げても我執を捨て切れない魔力があるのでしょうか。ゴルバチョフさんが顔面を赤らめたのは質問への怒りではなく、我執を捨て切れないことへのしゅう恥心だったと思います。
 前回も触れましたが、「ペレストロイカ」政策を展開する上でのゴルバチョフさんの知恵袋は、元大統領首席顧問のヤコブレフさんでした。「彼は歴史上の大事業を成し遂げた。しかし、偉大な政治家の歴史の上でのひのき舞台は一度限りのものだ。政治家が二回目のひのき舞台を狙うと喜劇になる」
 かつての盟友に対する痛烈な評です。先の大統領選挙での惨敗はロシア国民が彼の果たした歴史的偉業である民主化を認めず、ソ連邦の崩壊からきた今日の経済的混乱は彼の責任であると認識した結果なのです。政治家の評価が定まるには歴史という時間が必要なのです。ゴルバチョフさんは偉大な政治家として歴史に残るでしょう。ひるがえって、戦後わが国の首相経験者の幾人が歴史という時間に耐えられるのか、興味あるところです。
 



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