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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: ノーマン・ボーローグ博士 2)  
コラム名: 地球巷談 20  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 1997/05/18  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  徹底した現場主義が強み
 ハイブリッド小麦を育成、普及させることで何百万もの人命を飢餓から救ったノーマン・ボーローグ博士。数多いノーベル平和賞受賞者のなかでも、これほど具体的かつ大規模な業績をあげた人は少ないと思います。しかし、環境保護を主張する人々のなかには、博士の仕事を否定する動きもあったのです。
 いわく「食糧増産は、人口増加を持続させ、自然の摂理に反する」。「アフリカに近代農法を導入すると、かえって環境ストレスをもたらす」
 なかには、農薬と殺虫剤の区別もつかない議論もあり、博士は机をたたいて憤慨したこともたびたびでした。なぜなら、博士こそ、人口問題や環境問題に早くから関心を寄せてきた科学者なのです。
 「単位面積あたりの収穫量のアップが不可欠。人口増加にみあう畑を開拓してゆけば、地球はまる裸になってしまう。また、多収性農業を進めてゆけば、投下労働量を減らすことができ、子だくさんも減り、人口増加も抑制できる」
 こうした博士の主張により生まれたインド、パキスタンでの「緑の革命」は、飢餓の回避ばかりでなく、高出生、高死亡率という前近代的社会からの脱却をも促すことになったのです。
 ボーローグ博士の一番の強みは徹底した現場主義です。現地の農民と一緒に泥と汗にまみれ、食べ物も、アレルギーがあるエビとカニをのぞけば、まったく現地の人々と同じです。
 冷房の効いた部屋で自称エリートたちが展開する環境保護論議に対し、「五十年間、農民とともに土をいじってきた手だ」と節くれ立った大きな手を開いて論破してきた人です。
 博士は一九一四年に米国アイオワ州に生まれました。若いころは、レスリングでオリンピックをめざしたことがあり、また大学時代は野球の名ショートとして活躍、大リーグからも誘われたそうです。
 そもそも農学者を志したきっかけは、故郷の米中西部に猛威をふるう「ダストボール」と呼ばれる土砂あらしと農民の戦いを目の当たりにして育ったからだ、と聞いたことがあります。
 一年に二百日以上海外で農業指導する博士と会うのは一仕事です。かつて、博士との二時間の打ち合わせのため、東京からブエノスアイレスまでの長旅を強いられたことがあります。功なり名をとげた博士ですが、旅行中、「私の仕事だ」とカバンを他人に運ばせません。
 八十歳をこえていまなお、しゃく熱の太陽の下で農民を指導する博士の後ろ姿を見るとき粛然たる気持ちになります。
 



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