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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: 北朝鮮 故金日成主席 4)  
コラム名: 地球巷談 4  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 1997/01/26  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  「貧しい」の一語に尽きる
 金日成主席との会見のための北朝鮮訪問は四泊五日と短いものでした。先にも触れましたが、金主席は国際情勢については的確に把握しているなと思いました。
 しかし国内事情についてはとなると、いささか首を傾けざるを得ません。確かに、経済面で厳しい状況下に置かれていることは分かっていたとは思いますが、下々の本当の苦しさについては、その把握度に疑問をもたざるを得ません。所詮(しょせん)、地方視察も御成り道路を通ってのものなのですから。
 滞在中、少年宮や図書館を視察する機会がありました。確かに電灯が光々とついた教室で熱心に子供たちは勉強をしていました。しかし、ひょんなことから、視察が終わると教室ごとにたちまち電灯が切られ、子供たちが勝手気ままにがやがや遊んでいるのを見てしまったのです。このところ、高層ビルのエレベーターがストップしているとも聞きます。要は極端なエネルギー不足で民需をまかなうことができないのです。
 ピョンヤン郊外の模範農場は立派なものでしたが、西海ダム視察の際、車中から見える農村風景は貧しいの一語に尽きるものでした。もちろん、バス、自動車も見受けられず、ただ黙々と路端を荷を背に歩く人々の姿だけが目につきました。
 私も幼いながら戦後の食糧不足を身をもって体験した世代です。当時すでに北朝鮮の食糧不足が慢性化していることが、肌をもって感じとれました。最近、北朝鮮では茶髪の子供がいるそうです。六本木辺りのコギャルをまねたものではありません。栄養不足からの変色です。
 カーター米元大統領が音頭をとり十人近い米農業調査団が派遣されました。その調査結果では、年々続く農業不振は化学肥料の過剰使用によるものとのこと。化学肥料で痛めつけられた土壌の回復には時間と費用が必要です。となれば、即効的な北朝鮮に農業立て直しの処方せんは存在しないということでしょうか。私たちは、北朝鮮の食糧不足が今後も慢性的に続くことを知っておくべきでしょう。
 さて、金主席との会談終了に際し、私は北朝鮮側に金正日書記との会見キャンセルの代償に、当方が開催する答礼宴に北朝鮮一番の美女たちの参席を要望しました。もちろん、彼らは美女集団の参席を確約しました。
 会見当日の夜に開催した答礼宴には、確かに多くの女性の参席を得ることができました。しかし、ほとんどが国家功労賞に輝く中年以上の女性たち、歌もうまいが酒も強いたくましい集団でした。後年、北京でのアジア大会開会式で目を見張った北朝鮮応援の美女たちとは大違いだったのです。
 



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