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著者: 青柳 光昌  
記事タイトル: 障害者自身の力での社会参加を支援  
コラム名: 自動車関連団体めぐり 19  
出版物名: ニュートラック  
出版社名: 日新出版  
発行日: 1997/11/25  
※この記事は、著者と日新出版の許諾を得て転載したものです。
日新出版に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど日新出版の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  ボランティア団体を支援
日本での福祉に対する意識を啓蒙する
 
 来たるべき高齢化社会をにらんで、今、お年寄りやハンディキャップドピープル(体に障害を持つ人)の社会参加への動きに注目が集まっている。従来日本には、「姥捨て山」の風潮があった。つまり、年をとって働けなくなった者や体が不自由な者は、老人ホームや山奥の病院に閉じ込め、社会から追い出してしまうといった、行政や一般人の考え方である。一方、欧米社会には、老人でも、ハンディキャップドピープルでも、極力社会参加してもらおうという考え方がある。また、長い間培われてきたキリスト教倫理観が社会や個人に染みついているために、ボランティアは国レベル、個人レベルで当たり前のこととして進められている。日本の福祉を、この欧米型の福祉に変えていこうと活動しているのが、今回訪ねた日本財団ボランティア支援部である。お話を伺ったのは、事業企画課の青柳光昌係長だ。
 この日本財団、日本船舶振興会という名称で覚えている人がほとんどだろう。モータボート競走売上金を資金源とし、海洋船舶関係事業の他に海外への援助事業や福祉事業を行なっている財団である。笹川良一会長に代わって曽野綾子さんが会長として就任し、また、最近になって事業内容のうちボランティア事業の割合が大きくなったということもあって、日本船舶振興会という名称では事業内容を正しく伝えることができないため、96年1月1日より「日本財団」という通称を用いるようになった。
 10月15日から17日の3日間、東京ビッグサイトで開催された「第24回国際福祉機器展」に、障害者から構成される「ジョイ・プロジェクト」という団体が「ジョイ・バン」という車両を出品した。これは、ジョイ・プロジェクトがアメリカのメーカーから購入したバンで、車椅子のままで乗り込むことができ、片手の操作でも運転できる。これまで日本になかったタイプの車両なので、一般に知識を広めるために全国をキャラバンしているのだ。ジョイ・プロジェクトが全国をキャラバンするために、いろいろな企業や団体が支援しているが、その中でも、1000万円程度するジョイ・バンの購入費を援助し、ジョイ・プロジェクトの活動の最初の段階から関わってきたのが日本財団・ボランティア支援部だ。日本財団の福祉事業のほとんどは資金や現物での補助だが、ジョイ・プロジェクトの場合、キャラバンを共同で企画し、援助するという、調査研究事業という名目で活動を支援している。担当者の青柳さんも、この夏から秋にかけては、週末、日本全国を巡るキャラバンが駐屯している現地に飛ぶという生活を送っていたそうだ。
 青柳さんによると、欧米では、足の不自由な人が車椅子で車に乗り、運転するということはそれほど珍しいことではない。車椅子に乗っている人で、トラックドライバーや刑事など、仕事を持っている人は多いそうだ。一方で、日本で造られている福祉車両は、障害者が自分で運転する車でも、車椅子から運転席に乗り換えるタイプのものなので、必ず誰かの介護を必要とする。いつでも、自由に、どこへでも出かけたいというユーザーのニーズを本当に汲み取っているとは言えないのではないだろうか。日本にジョイ・バンのような車を造る技術がないわけではない。このような車両を造るのには、かなりの資金が必要になるが、アメリカでは、国からメーカーに補助金が出るのに対し、日本にはこのような助成金制度がない。またこれまで、本当に障害者の立場に立った車づくりがされてこなかったのも原因の一つだろう。要するに、障害者が社会参加するための社会的な環境が整っていないのだ。
「障害者が社会に参加するための道具として、このジョイ・バンはとてもわかりやすいんです。マスコミにも何回か取り上げられていますし。車も面白いし、ビジュアル的でわかりやすい。現地に行くと、車椅子の方が毎回10人、20人と来て、中に入って、装置を触ってみるわけです。これまで、自分が車に乗せてもらうことはあっても、自分が運転するということは考えても見なかった人たちが、驚いたり、喜んだりしているその表情を見るのは我々としても嬉しいし、その中に、今までは免許が取れなかったが、この車だったら免許を取ることができるという人も何人かいらっしゃいます。その場合には、免許を取る方法もお伝えしています」。
 このように、日本財団はジョイ・プロジェクトの活動を通して、福祉に関しては欧米に大きく立ち後れている日本の社会を啓蒙し、環境を整えていこうとしているわけだが、ジョイ・プロジェクトの活動には、もう一つ重要な意味があるという。
「こういうボランティア団体のことを、アメリカから輸入した言葉でNPOと言います。ノン・プロフィット・オーガニゼーション、つまり、営利を目的とせず、社会的に有益な活動をしている団体です。日本のNPO団体の一番大きな問題として、お金が集まりづらいということがあります。お金がないから、人材が集まらない。人材が集まらないから、いいマネジメントができない。このジョイ・プロジェクトはきちんとしてますけど……。
 欧米の場合、NPO団体は行政、企業に並んで、対等な地位にありますが、日本の場合、しょせんボランティア団体ということで、低く見られがちなんです。責任もなく、好きでやっていることなんだからと……。日本に何千とあるNPO団体が全て行政・企業と対等になることはないですが、中心となるような団体は、日本のトップと呼ばれるような企業と対等になるようにならなければならないと思います。そのような意味でもジョイ・プロジェクトの活動には注目しているんです。というのは、ジョイ・プロジェクトは初めの段階では、本当にどこの馬の骨かわからない団体だったと思いますが、キリン福祉財団というところが年間300万円の活動費を提供していたんですよ。また、民間企業のスポンサーもいくつか入っているんですが、そういうところからは、お金の援助をしてもらうのではなく、車の整備をしてもらったり、フェリーに無料で乗せてもらったりしているんです。ジョイ・プロジェクトは、自分たちはこういう活動をしていて、支援をしてくれれば企業のPRになる、ということを企業側と対等に交渉できる団体なんです。これまでは、障害者=可哀想な人、という図式があって、企業の側では、可哀想な人が来てこう要求してるから、弁当代でも包んで帰ってもらえ、という対応で、障害者自身もきちんと意志を伝えていませんでした。ジョイ・プロジェクトは、障害者自身で構成された団体で、しかも企業と対等に渡り合えることを実証しているケースなんです。これから障害者の人たちが仕事を持つにせよ、市民活動をやるにせよ、参考になると思い、調査の対象にしています」。
 今の日本では、法人、あるいは民間企業が公益、福祉事業を行なっていることに対し、何の根拠もないのに「裏で汚いことをしているのだろう」とか「金儲けのためにやっているのだろう」などと、うさんくさい目で見られることが多い。福祉あるいはボランティアは、自分の利益を捨て、滅私の心で「無力な」障害者を助けてあげるものだ、というきれい過ぎるイメージがあるようだ。しかし、ハンディキャップドピープルが自分の力で立ち上がり、自分で意見を述べようとしている今、それを受け入れる社会の一員である私たちも、これまでの誤った認識を改めなければならないだろう。
 
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